川北英隆のブログ

時価会計:クルーグマン氏への批判

極端に言えば「アホやん」という新聞記事を見つけた。4/14の日経の夕刊によると、クルーグマン氏(ノーベル経済学賞受賞)が、今日の金融危機への対応手段としての時価会計の基準緩和に関して賛意を示すとともに、「現在の米政府は(90年代に時価会計の導入を遅らせようとした)日本と同じことをやっているだけだ」と皮肉ったとしている。
この記事は記者を前にした発言だとされる。直に聞いたわけではないので正しい評価かどうかは不確かだが、この記事の内容が正確だとして、次の批判を行っておきたい。
第一に、現在のアメリカ政府や欧州の対応は、時価会計の導入を遅らせようとのことではない。もちろん、そのように評価する関係者がいることは間違いないが、他方でアメリカや欧州では、時価会計とは何なのかという本質的な議論が始まっている。言い換えれば、時価会計がベストではないとの議論である。本ブログ・シリーズの「金融商品の時価会計」でまとめたように、導入が急がれている「現時点までの欧州流の時価会計」が市場関係者に誤った行動をもたらす可能性を否定できない。より望ましい会計基準とは何なのか、それを再度議論するのが正しい方向感である。記事を読む限り、「時価会計が最善であるが、非常事態だからその適用時期を遅らせようとしており、そのような対応が実務的に望ましい」とのクルーグマン氏の考え方は不適切だ。理論的すぎ、現実的ではないとも評価できるだろう。
第二に、90年代の日本と現在のアメリカの対応を同一視するのは、日本人としての立場からしても、アメリカに厳しすぎる。アメリカが完全に正しい対応をしているとは言えないものの、90年代の日本と比べれば雲泥の差である。別の観点から述べるのなら、現在のアメリカは時価会計の導入を遅らせようとしているのでなく、「現時点までの欧州流の時価会計」に対して再検証を迫っている。他方、90年代の日本の議論には、時価会計の本質に対する批判はほとんどなかったし、何らかの批判があったにしても自己都合からのものでしかなく、本質的ではなかった。
いずれにせよ、この記事の内容は適切ではない。少なくとも「人気経済学者の警鐘」との見出しは言い過ぎである。見出しにするにしても「人気経済学者の一見解」程度のものである。

2009/04/14


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