銀行は株式市場全体の5%近くを有する大株主である。その多くは取引先の株式であり、相互持ち合いを形成しているものが多い。この銀行による株式保有は経済を不安定化させる。将来、特殊な事情がないかぎり、禁止すべきである。
2007年以降のサブプライムローン問題によって、その保有株式の時価が大幅に下落し、銀行経営に打撃を与えている。株式の含み益が、BISの自己資本比率規制における広義の自己資本(Tier2)を形成しているからである。この措置は日本の銀行の特殊な事情をふまえ、監督官庁が認めてきた。しかし、1990年代から2000年初頭にかけての株価下落が、この銀行の自己資本を急速に縮小させ、金融システム不安の大きな原因となった。これを受け、銀行の株式保有額を狭義の自己資本の範囲内に収める規制が導入された。
現在の銀行の株式保有5%という数値は、1990年前後のピーク時の比率15%強に比べて1/3の水準にある。これは、株価下落による自主的な株式保有の縮減と、株式保有の制限のためである。
残念なことに、それでも今回の株価下落は、銀行経営に再び打撃を与えている。BISの自己資本比率規制に対する余裕を奪い、資金貸出に対して慎重な姿勢をとらせてしまったわけだ。実のところ、2003年から2007年までの株価上昇過程において、銀行は取引先の株式保有に関して前向きな姿勢を示していた。利益が増え、経営的なゆとりが生じた。このため、株式を新たに保有することが可能になった。また、経営者として、株価下落のリスクを気にする必要が少なくなったかに判断できたのだろう。しかしながら、その結果はといえば、1990年代ほど悲惨ではないにしろ、今回もそれに次ぐ打撃を被ってしまった。
1990年まで銀行が大量の株式を保有していても問題がなかったのは、自己資本比率規制のなかったことが幸いしたこともあるが、基本は株価が上昇を続けていたからである。国内の経済活動が拡張していたから、企業の利益水準が上昇し、株価を押し上げた。
考えなければならないのは、1990年以降、名目GDP成長率がほとんどゼロになってしまったことである。この経済環境の中で、株価の上昇率が低いものに留まるのは当然である。伸びる企業もあるわけだから、反対に株価が傾向的に下落する企業も出現する。さらには、景気の波に応じて上場株式全体が下落する局面も多発する。
以上のような株価を取り巻く経済環境を考えると、銀行が株式を保有するのはリスクが高い。そのリスクの高い株式の含み益を自己資本として算入するのは制度設計として完全な誤りである。アメリカのように、銀行業務の展開の観点から止むを得ない場合を除き、銀行の株式保有を禁止するのが今後の正しい制度設計である。
2009/04/24