植物が好きである。山歩きでの楽しみの一つが多様な植物と出会えることにある。それなのに、身近な山に繁茂している植物を知らなかった。
5年前、京都に移り住み、ベランダから東山を見ていて不思議な光景に気づいた。東山の裾野が淡い黄色に染まっていたのである。その正体を見分けるため、山に入った。見知らぬ幹の赤い木に、一面、少し黄色を帯びた白い花が咲いている。しかも、そんな木が至る所にある。多分、この木がベランダから見えたのだろうと推察できたが、その木の名前が分からない。家に戻り、図鑑とネットで調べた結果、「ばくちの木」と呼ばれるサクラの仲間だと判明した。
幹の皮が剥けて赤くなった様子が、ばくちに負け、すってんてんになった有様に似ていることから、ばくちの木と呼ばれていると書かれている。かわいそうな名前である。とはいえ、その名に反して花の咲いた様子は豪華である。ばくちに勝ち、瞬間的に大金を手に入れたのだろうか。しかも、ばくちの木が京都の東山を覆い、目立っていることからすると、いずれすってんてんになるとは考え難い。実は勝負強い木なのだが、すぐに負けると装っているのだろう。
2009/04/30