5月18日、アメリカ格付け機関の大手、ムーディーズ社が日本国債の信用格付けをAa2まで引き上げた。結論から先に述べれば、格付け機関の打算が見え隠れし、稚拙な判断である。
2002年5月、日本国債はA2まで引き下げられ、アフリカにあるダイアモンド王国ボツアナ以下になっていた。それから何年か経った今回、先進国ではようやくイタリア並みまで引き上げられたわけだ。しかし、今、何故引き上げなのか、不思議である。というのも、現在の日本政府は補正予算を組み、民間に大盤振る舞いしようとしている。借換債を除いて、新規に発行される予定の国債の額は史上最高である。今後、金利の支払いで国の財政はますます逼迫するだろう。このタイミングで何故格付けを引き上げ、「日本の財政の健全度が増した」ことにしたのだろうか。
ムーディーズ社から理屈はいろいろ述べられている。しかし、絶対的な財政の健全度に関して、説得性のある説明はないに等しい。今回の引き上げは、要するに相対的な基準に基づいている。欧米諸国が金融システムの安定を図るため、また景気の急落を阻止するため、大規模な財政政策を打ち出している。当然、各国の財政は急速に悪化している。その状況に比べれば、日本は「まし」というわけだ。周りがこけたから、相対的に優秀になっただけである。
別の推測をすれば、ムーディーズ社の母国、アメリカ国債をAAAから引きずり下ろさないためには、相対的に優秀な日本の格付けの引き上げを余儀なくされたのである。アメリカと日本の距離が縮まったといえる。
うがった見方をすれば、格付け機関に対する規制強化が図られようとしている現在、もしもアメリカの格付けを引き下げる決定を下したならば、格付け会社の自殺行為となりかねない。その最悪の事態を避けるために、日本の格付けを引き上げ、アメリカと日本の信用力の距離感を世間的に妥当な範囲に収め、当座をしのいだのである。
そうとはいえ、今回はいかにもタイミングが悪い。2007年までの景気拡大期に日本の財政赤字は急速に縮小していた。その時にもっと格付けを引き上げておくべきだったのである。その絶好のタイミングを失してしまい、この絶悪のタイミングを選択したのである。やはり、今回の決定は、格付け機関に対する信認を低下させるものでしかない。サブプライムローンの証券化商品に対する格付けと同様、稚拙な判断を隠しおおせていない。
2009/05/20