川北英隆のブログ

会計基準と国債発行

丹呉財務次官が、会計基準の見直しが金融機関の国債保有に影響を与える可能性があるとの発言をした。丹呉さんを個人的に知っているので大変だろうとは思うが、会計基準の見直しは正しい方向にある。
財務省のホームページによると、「国際会計基準審議会において見直しを含めて時価評価を・・・広げる・・・話が出ています。これによって金融機関の・・・国債保有が離れていくのではないかという見方が出ておりますが、国債管理政策上どうでしょうか」との記者の質問に対し、「会計基準の在り方が金融機関の国債保有に・・・影響を与えるということはあると思いますけれども、一方ではマクロ的な国債の保有は金利の問題等々あると思いますので、・・・これから我々としても、市場との対話等を通じてどういった影響があるか等々につきまして勉強をしていかなくてはいけない課題だと思っております」と答えたとある。
この会計基準の問題とは、国際会計基準での議論に沿い、現在の「その他有価証券(売却目的有価証券、満期保有目的債券、子会社・関連会社株式の3つの区分に該当しない有価証券)」としての区分が消滅する可能性である。
現在、金融機関が保有する国債をはじめとする債券の多くは「その他有価証券」として区分されている。持ち合い株式も「その他有価証券」に区分されることになる。
この場合、国債等の簿価と時価との差額(含み損益)は損益計算書に計上せず、貸借対照表の資本の部に設けられた「その他有価証券評価差額金」に計上する(計上する金額は税効果会計を適用した額)。
もしも、「その他有価証券」がなくなれば、満期保有か売買目的に区分せざるをえなくなる。一方、銀行の場合、預金で集めた資金は短期であるため、長期国債を満期まで保有することはまずありえない。とすれば、いずれ売買する目的で保有するとの会計的な認識を行い、毎期、損益計算書において保有国債の評価損益を計上する必要性が生じてくる。この結果、金利の変動に伴って国債価格が上昇もしくは下落し、それに伴って事業活動によって得られた利益が大きく変動してしまう。
そうだとすれば、銀行が国債を保有できなくなるというわけだ。
日本の財政が国債に大きく依存しており、その国債の過半を銀行、保険会社が保有している。これらの機関が、事業利益の変動が大きくなることを嫌えば、国債の発行に影響が生じ、財政の見直しを迫られかねない。
とはいえ、そもそも論としては、長期的な投資家である生命保険会社はともかく、短期的な資金を扱う銀行が長期国債を保有することは極めてリスキーである。サブプライムローン問題が火を噴いたときに話題となったSIV(Structured Investment Vehicle)と同様、調達した短期資金で長期資産を保有する構造を銀行内部に作り上げているからである。違いがあるとすれば、潜在的な信用リスクのミスマッチがないことであろう。
つまり、金融システムに対するリスク回避を最優先課題の一つだと考えれば、銀行が保有できる国債の量には当初から制約がある。会計制度の変更が、その制約を浮き彫りにしようとしているに過ぎない。国債の消化の問題は国債大量発行が始まった当初からあったのだが、その解決策を今まで議論してこなかったことが間違いだった。会計制度の変更は、日本の財政をどうするのかという最も本質的な議論のスタート台を与えてくれている。

2009/07/20


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