中小・零細企業および個人の債務返済に関する猶予制度の政府原案が明らかになった。制度の必要性はともかくも、方法に関して問題があるだろう。
この議論は段階を追って考えなければならない。
第一に、債務返済猶予制度が必要かどうかである。これは政府の責任において考えるべきものである。制度を導入した場合の政策効果と、その政策を実行するに必要な国民負担の比較であり、国民負担に関しては他の政策との優劣の見極めである。個人的な意見として、これらの検証が十分に行われたとの情報を国民は得ていない。政策を実行する場合、この点に関する情報開示が必要だろう。
第二に、債務返済猶予制度が必要だとして、その制度を導入することによる負担を最終的に誰が負担するのかという視点である。今日の新聞の情報によると(全部かどうかはよく分からないが)相当部分は政府が負担するらしい。この点は、次に指摘する第三の観点としての遂行形態の問題が残るものの、適切である。
第三に、誰が制度の実行を担保するのかである。この点は、民間金融機関が最前線に立ち、それを政府機関(国が直接的に損失を負担するか、信用保証協会の保証によって)が実質的にバックアップする案が考えられているという。個人的には、この点が問題だと思う。政策の遂行に民間機関を相当程度巻き込むことは望ましくない。単純な事務委託ならともかく、金融庁の指導等に基づいて裁量権を民間に委ねることは、政府の責任があいまいになってしまう。政策として債務返済猶予制度を導入する必要があると判断するのであれば、首尾一貫して政府主導で政策を実行するのが筋である。
政府の政策の遂行に民間機関が巻き込まれ、そのために民間企業としての本来の機能の遂行に支障をきたしかねない。今回の場合、民間金融機関としての世界的な信用や評判を低下させてしまうリスクがある。日本の金融機関の能力に対する疑念が国際的に生じたのならば、日本経済全体にとっての大きな損失となる。
いずれにせよ、政府か民間か、誰がどの機能を遂行するのか、役割分担を明確化し、その上で機能の遂行組織を切り分ける必要があるだろう。この問題は9/25で論じた郵政民営化の議論に通じるものである。今回の制度設計は、依然として、過去の政府の「渾然一体」かつ「あいまいな」、行政指導を働かせた経済政策の遂行形態を踏襲するものでしかない。
2009/10/09