川北英隆のブログ

輸出回復は本物か

12/21に財務省が貿易統計(速報)を発表した。それを受け、当日の日経夕刊の見出しに「輸出持ち直し、対アジア14ヵ月ぶり増」とあったが、正しくない評価だ。その横のサブの見出しに「輸出額なお低水準」とあるのがせめてもの救いだろう。
10/22のブログで書いたように、「昨年は10月から輸出が減少に転じ、11月に急落したから」、「10月以降について、輸出の状況を見るには注意が必要」となる。前年同月と比べて増えたといっても、比べる相手が矮小なら、威張る意味がない。そうだから、サブ見出しの「輸出額なお低水準」が正しい方向を指している。
ちなみに、11月の輸出数量は前年同月比-1.6%となり、10月の-13.0%から見ると大幅に改善している。比べる相手の矮小化効果による改善だ。同じく、11月の輸出金額(貿易統計では円ベース)は前年同月比-6.3%となり、10月の-23.2%から大幅に改善している。
では、11月の輸出の実態はどうだったのか。輸出にはかなりの季節性があるから、数字の推移だけで正確な評価を下すのは難しい。このため、財務省は過去10年の輸出のクセに基づいて季節調整済みの輸出金額を公表している。それによると、11月の輸出は10月に比べて4.9%の増加になるとしている。
この季節調整済みの数値に難癖を付けるわけではないが(付けているかな)、季節調整のような統計的な処理を鵜呑みにしてはならない(鴨川の鵜に、差別用語を使ってしまったと謝っておこう)。リーマンショックのような数字の急変も、季節性だとして処理しかねない。そこで、リーマンショックの影響を受けていない2007年や06年の9-11月の数値を観察し、2009年の11月の数値に戻ってみた。そうすると、次のようなことが言えそうだ。
第一に、10月に比べて11月の輸出は減少する傾向にあるが、その率はたかだか数%である。第二に、季節調整前の数値で見て、2009年11月は10月に比べて輸出数量は9%、輸出金額は6%落ち込んでいる。第三に、現在の輸出の水準はピークに比べて低く、世界経済が回復しているのなら増加基調を続けても何の不思議もない。以上からすると、10月と比べた11月の輸出の減少幅は大きすぎる。輸出の回復が踊り場にさしかかっているのか、腰折れしたのか、その可能性を想定しておくことも必要だろう。
いずれにしろ11月の輸出は、新聞の見出しとは異なり、良くなかった。日本経済が輸出の回復頼みであるから、12月の輸出を引き続き注視したい。

2009/12/23


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