銀行、証券会社、重電等の大型増資(新株の発行)が目立つ。多くはこれまで増資から遠ざかっていた企業である。株式市場が低迷している時期に、何か変である。
この増資ラッシュが株式市場の需給を悪化させ、株価の低迷を招いているといわれている。日経の記者がインタビューしてきたので、そのインタビュー内容も踏まえ、少しコメントしておこう。
株式を公開しているメリットの一つは、資金調達の自由度が拡がることである。株式を公開している企業は、このメリットを享受するために、いつ増資をしてもかまわない。
ただし、株式による資金調達にはコストがかかる。そのコストを十分に把握し、増資しているのかどうかである。コストをかけて資金を調達し、その資金を投下しても十分に採算が合う対象があるかどうか。これが重要な判断の基準となる。さらに言えば、株式を発行するのは、経営者として「今がコスト的にチャンス」と思うからである。
では、現在の安値で新株を発行し、資金調達することが正当化できるのだろうか。過去の好況時に経営としての成果を挙げてきたのなら、株主もある程度納得するだろう。また、将来に対する確たる展望を示した場合も納得できるかもしれない。
残念ながら、このようなケースは多くない。むしろ、好況時にも十分な成果を達成できず、リーマンショック以降に絶不調に陥ったケースさえある。この場合の増資は、投資家からすると、経営者の保身か、企業が生き延びるための窮余の一策としか思えない。過去に投資家が経験してきた第三者割り当て増資の多くは、この窮余の一策だったからでもある。
株式市場が安値にある時期に増資するのも、理屈の上で変である。経営者は「今がチャンス、安く資金調達できる」と思ったのだろうか。高く売り、安く買うのが商売人の行動原理である。株式も同じで、安い時に株式(自己株式)を買い、高い時に株式(増資によって新規に発行した株式)を売るべきである。それとも、増資をした企業の経営者は、「今、わが社の株式は高値にある」と判断したのだろうか。
いずれにせよ、増資は経営としての重要な判断である。そうだから、何の理由で増資をするのか、株主に正直に表明すべきだ。現実はそうでない。だから株式投資家はますます株式不振に陥る。
2009/12/23