日経の経済教室に金融政策に関して2人の意見が掲載された。4/15は伊藤隆敏氏、4/16は翁邦雄氏だった。2人の意見が対立していた。この紙上論争の評価をしておきたい。
伊藤氏はインフレターゲット論をベースに、中央銀行がバランスシートを膨らませ、積極的に資金供給すべきだとする。金融政策が経済に大きな影響を与えうるとの見解に基づいている。一方、翁氏は、現在の中央銀行が当座預金に付利する政策を採用していることから、バランスシート拡大だけでは金融緩和度合いを計測できないとする。また、金融政策だけでは日本のデフレからの脱却が不可能だと結論している。
中央銀行がさまざまな資産を市場から購入することによって資金供給の積極化を図ったとしても、民間金融機関からの当座預金に付利するのなら、金融緩和効果が薄められることは確かである。中央銀行が資金供給を積極化する一義的な目的は、資金を市場の隅々にまで行きわたらせ、資金調達の障害によって金融機関の経営が行き詰ることを回避することにある。そうだとすれば、バランスシート拡大だけでは金融緩和度合いを計測できないとする翁氏の議論の方に正当性がある。
もっとも、法定の準備預金と異なり、当座預金への付利は金融機関の行動に対する自由度を奪うものではない。中央銀行の当座預金に資金を預けるのか、それ以外の資産に投資するのかは金融機関の自由である。そうだとするのなら、中央銀行のバランスシートの拡大は金融緩和度の1つの尺度となりうる。
つまり、欧米とりわけアメリカのように魅力的な投資対象が残っている(つまり民間に資金が流れやすい)国での議論なのか、日本のように魅力的な投資対象がきわめて少ない(つまり民間に資金が流れにくい)国での議論なのかによって、中央銀行のバランスシートの拡大には異なった評価が下される。この点で、2人の議論が噛み合っていない。もしくは、少なくとも伊藤氏の議論の最終的な対象が日本にあるのは、いささか強引だと思える。
経済に対する中央銀行の役割も同じである。日本の場合、金融緩和が大きな効果をもたらさないのはこれまでの経験からほぼ明らかだ。議論が日本を念頭に置いたものであるのなら、翁氏の結論の方が妥当である。
2010/04/18