4-6月期の銀行の決算が好調だった。その主たる要因は債券の売買益、すなわち債券売買業務部門の利益である。不思議なのは、銀行の債券売買業務部門はプロとはいえ、そんなに相場動向をピタリと当たられるのだろうかということだ。
もちろん債券相場すなわち金利に関する分析スタッフが充実していることは間違いない。でも、一般の投資家にも負けず劣らずのスタッフがいる。
銀行の債券業務部門が売買益を稼げるのは、「相場を作れる」からだろうと思っている。
かつて株式市場には「シナリオ相場」という言葉があった。「東京湾の海岸地帯にビル群が建ち、そこに急速に発展した企業や外資企業が進出するから、東京湾に広大な土地を保有している企業は買い」というような、1980年代後半の株式市場では、証券会社のご宣託が大手を振っていた。残念ながら、現在の株式市場に対する日系証券会社の影響力は小さくなってしまった。海外投資家や個人のデイ・トレーダーの影響が大きくなりすぎている。だから、現在、株式市場でシナリオ相場という言葉はあまり聞かない。
これに対して、債券市場は顔見知りの投資家だけの世界である。村社会ともいえる。その中で、証券会社や銀行の債券売買業務部門は半歩先を読み、債券相場のシナリオを描き、投資家の呼び込みを十分に行える。
シナリオを描いた証券会社は、投資家がそのシナリオに乗って動いているのかどうかの情報も、ほとんどつぶさに得ることが可能である。一握りしかいない大手の投資家の行動を注意深く観察すれば十分だからである。
本日、10年国債の市場金利が1.0%を割った。投資家は、数年は大丈夫、金利なんて上がりっこないと国債を買い進めている。証券会社はその投資家の行動を確認し、ポジションを作り上げ、利益を稼ぐのである。株式市場を御すのは難しくなった。しかし、債券市場はまだまだ簡単である。そんな思いを強くする一日だった。
2010/08/04