川北英隆のブログ

円高は恐怖なのか

円高が本当に望ましくないのか、最近、いろいろな人と議論する機会がある。みんな揃って言うのは、大騒ぎするほどのことはないという結論だ。
このことはいろんな観点から主張することが可能である。
まず、日本にある1500兆円の個人資産は円高になると値打ちが増す。そもそも外貨で保有している割合が高くないからだ。だから円高は望ましい。
さらに言えば、個人の将来の所得を考えると、円で受け取るものが大部分である。昨日、元新生銀行の会長さんに講義をしてもらったが、その場でも「個人年金の受取りを考えると円高が望ましい」という話しになった。
でも、日本は海外にたくさん投資をしていて、それが円高の影響を被るのではないかとの反論がありそうだ。それはそうなのだが、その金額(証券投資と海外の工場などへの直接投資を合計した金額)は、海外からの投資を差し引くと、266兆円(2009年末)である。個人金融資産と比べれば大きくない。つまり、海外投資を考慮したとしても、日本全体が保有している資産が円高によってメリットを受ける状態に何ら変わりはない。
では、企業業績が円高によってダメージを受けるという常識的な議論はどうなのか。これも怪しい。確かに輸出企業は円高によってダメージを受ける。でも、他方で輸入企業はメリットを受けるはずだ。そもそも、日本の貿易収支はたかだか10兆円の黒字であり、最近ではこの黒字も縮小傾向にある。10%為替が変動したとして、その影響は1兆円に満たない。
円高でメリットを受けるのは主に原材料を輸入している企業である。「儲かっている」と公言してしまえば、製品価格の値下げ交渉に巻き込まれてしまう。電力会社、鉄鋼など、利益見通しが常に控えめなのは、製品やサービス価格の交渉を有利に運ぶためである。同じことが円高に関しても生じている。
これまで議論してきた多くの人は、円高の影響に関してまともな考え方をしている。それでは、経済団体や新聞の論調って何なのだろうか。本気で円高が大変な影響をもたらし、日本を潰してしまうと考えているのなら、相当バイアスがかかった議論だろう。もしくは、このブログで何回か書いたように、騒ぐことで自分達に都合の良い政策を引き出せるという、他人任せの経営を源とする議論かもしれない。

2010/11/03


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