川北英隆のブログ

増資のプレミアム

元上司の大先輩から書類が届いた。経済的事実や経済小説の出版を目指されている。その過程で「知恵蔵」を引いたら、理解のできない記述があったので、確認して欲しいとのこと。
「知恵蔵」って毎年発行される百科事典的な大部の雑誌だった。類書(現代用語の基礎知識)もあり、一時流行っていた。買ったことも、執筆したこともないが、知り合いが執筆していた知恵蔵はもらったことがある。どうなったのか調べたところ、知恵蔵の出版は2007年版で終わり、ネットで細々と更新されているようだ。現代用語の基礎知識の方は2011年版が出ている。
それで、質問は1998年版に関してである。確かに、一度入手すれば、しばらく使えるから、翌年も買おうなんてあまり思わない。古いものを参考にするのはありだ。
その「時価発行」の項に、「・・・株主割当・額面増資では時価との差額である増資プレミアムは株主に帰属するが、公募・時価発行では発行会社に帰属し・・・」とあるが、この記述が正しいのかどうかの質問だった。ちなみに、2001年の商法改正によって額面の概念がなくなり、現在は時価での増資か、時価未満での増資の概念しかない。
この知恵蔵の記述は混乱している。
「時価と額面(当時50円が多かった)との差額」をプレミアムと呼ぶものとして、新株が額面で発行された場合、そのプレミアムで株主は大儲けしそうだが、その分だけ株価は「権利落ち」してしまい、言い換えれば増資後に株価はプレミアム分だけ値下がりするので、額面発行増資だけで株主が儲かることはない。つまりプレミアムは消滅する。現在の株式分割と同様、その後に増配してくれるか、増資の手取り金で企業と株価が成長しなければ、株主が儲かることにはならない。
額面発行の場合、上で定義した意味でのプレミアムはどこにもない。額面発行のときにあったであろうプレミアムを発行会社が横取りするという意味のことを知恵蔵は書きたかったのかもしれないが、そもそもプレミアムはないのだから、発行会社に帰属するとの表現は変である。それに、時価発行増資の場合、増資による手取金は株主資本に計上される。つまり、新株の対価として払い込まれた資金は株主のものとして認識され、会計的に処理される。「(プレミアムが)発行会社に帰属し」と表現して、株主に帰属しないような書き方からして正しくない。発行会社と株主を対立的に捉えることに間違いがある。
ということで、印刷物が絶対に正しいことなんてない。だから、「本を書いて恥をかく」と言われたりする。自戒である。

2011/09/18


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