アジアで急速に台頭した企業の1つが韓国のサムスンである。そのサムスンの中核企業、サムスン電子の専務であり、日本サムスンの社長だった李昌烈氏の話を聞けた。1976年の入社である。
ハーバード・ビジネススクールの総括によると、サムスンが成功したのは、巨大組織とスピードの結合、多角化と専門性の調和、日本式経営と米国式経営の統合にあるそうだ。でも、生半可な経営学の教科書にありがちだが、この総括は結果を示しているにすぎない。そもそもは現在の会長が会社を大改革したからである。
現在の会長は、1993年に、それまで質より量の経営だった経営を質中心へと徹底的に改革した。その下地には「会社としてダメな部分を報告させる制度」があった。その報告を受けて素直に反応し、幹部1800人全員を急遽、会長の出張先であるフランクフルトに呼び寄せ、2月にわたって全員で議論し、その結果を冊子にまとめて従業員に周知させるという、トップとしてのリーダーシップがあった。「いやー、でも」という幹部に、「それならクビ」と言ったという。
そのトップとしての意思決定の背景には徹底した合理主義がある。いかに効率良く、付加価値を生み出すかが考えられていた。とはいえ、従業員の人格を無視したわけではない。現場主義に根差した人材教育(その代表が海外地域専門人材の育成、要するに海外のこれと思う地域に人材を落下させる(放り込む)戦略)であり、成果主義の報酬体系である。今後のサムスンの方向性は見えにくいが、どうもハードからソフトに軸足を移しそうである。ソフトとはでは具体的に何なのかは、今後次第といったところだろうが、種は仕込みつつあるようだった。
韓国の宿命だろうが、国内市場は狭すぎる。だから、世界的な大企業になるには海外に展開せざるをえない。海外で成功するには人材が必要である。そのため、高度な専門性を有した人材を積極的に採用している。採用した後の教育も必要となる。その教育の一環が海外地域専門人材である。
トップの資質、人材の育成、経営戦略、これらが好循環し、すばらしい企業として結実したのだろう。今後の課題は、以上の経営戦略の持続性である。
というように、問題点の指摘は簡単すぎる。日本の悪い癖として、問題点を指摘し、「だからこれからは不明」、「慎重に」と結論してしまう。「これからが不明」なのは特定の企業に限定されない。不透明な将来の環境の中で歩み続けるには、経営者の的確な判断が必要となる。今日のサムスンがあるのは、経営者が構想力と熱意と判断力の点で素晴らしかったためだと考えられる。そんな経営者が日本でも登場すれば、状況が大展開するだろうに。
2011/09/21