川北英隆のブログ

何故PBRは1倍を割るのか

PBR(株価純資産倍率)が1倍を割っており、株価は割安になっていると言われることが多い。PBRの分母は貸借対照表の純資産であり、不良資産がないとすれば、企業の解散価値となるからだ。
今すぐ企業が解散すれば、残った財産=純資産が株主に分配される。その分配予想金額である純資産よりも株価の方が小さいことを、PBRの1倍割れが示しているから、「株価は割安」だとされる。本当だろうか。
この評価には2つの仮定が入っている。「不良資産がない」、「今すぐ解散する」との仮定である。この仮定が正しいのかどうか調べなければならない。
「不良資産がない」ということを少し広めに言い換えれば、「企業の資産が赤字を生み出していない」ことを意味している。企業として、赤字を生み出す資産を保有してはいけない。たとえば、銀行から3%の金利で資金を借り入れ、その資金で1%の粗利しか生み出さない資産を保有すれば、その資産は不良資産となってしまう。銀行借入でこんなアホなことをする経営者は皆無に近いだろう。
しかし、株式によって資金調達する場合、そうではない。株式による資金調達にもコストがかかる。このことを認識していないか、認識していたとしても借入コストと同程度と甘く考えている経営者は多い。詳しくは説明しないが、株式は無配になりうるし、値下がりもするから、リスクが大きい。そのリスクに見合ったコストを投資家として要求するのは当然である。カネを返済しそうにない者に対して高金利を要求するのと理屈は同じだ。
そこで、現在の企業が保有する資産は、借入金利を賄う利益を生み出しているものの、株式コストを賄っていないと想定してみよう。そのうえで、株式の価値を計算すると、その計算結果はPBRで1倍を割れてしまう。広い意味での赤字をたれ流しているから、PBRが1倍を割ってしまうとも言える。
簡単な事例を示しておく。ある企業が100の資金を全額株式で調達しており、その株式のコストを5%とする。一方、その資金で調達した資産が3%の税引後利益を産み出しており、その利益の全額が配当として支払われるとする。この企業の価値=株式の価値は、「配当/資本コスト」=「100×0.03/0.05」=60円となり、PBRは0.6倍である。ちなみに、税引後利益率が資本コストと同じ5%なら、PBRは1倍になる。
つまり、企業が資本コストを無視して資産を保有すれば、PBRは1倍を割る。1倍割れが続いている企業は、資産の利益率が低すぎると投資家からレッドカードを突きつけられていることになるから、早急に解散して赤字の垂れ流しを止め、残った財産を株主に返却すべきである。
残念ながら、そんな企業の「不良資産」が貸借対照表に計上されている金額で売れる保障はないし、何にもましてその企業の経営者が「解散」を意思決定するとは思えない。何故なら、そんな企業の経営者にかぎって、「PBRの1倍割れは投資家の認識不足、超悲観的スタンス」と開き直っているからだ。

2012/02/21


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