川北英隆のブログ

貿易収支と経常収支

国際収支の速報が公表された。2012年の貿易収支は1963年以来、48年ぶりの赤字という。この状態をいかに考えればいいのか。常識的に(最近の一般論的に)考えていいのだろうか。
48年前、1963年=昭和38年当時がどんな時代だったのかというと(爺婆が「昔はなあ」と語るようなものだが)、外貨準備が底をつかないように、国際収支が赤字になると輸入を抑制するために金融を引き締めていた。
それはともかく、最近の国際収支をめぐる議論は次のようなものだ。国際収支が赤字になれば国内に経済全体として資金が不足し、新規発行された国債を国内投資家だけで消化できなくなり、国債価格が暴落(金利が急上昇)しかねない。貿易収支が赤字となってきているので、所得収支(海外からの金利や配当収入)の黒字を増やすようにして、経常収支の赤字化は防がなければならないと。
問題は、所得収支の黒字を増やすためには海外に投資しなければならないことだ。このためには、当然のことながら、海外に資金が流出する。別の言い方をするのなら、投資家が「国内ではなく、海外投資が好きだ」と考えなければならない。もう少し言うと、「日本国債よりも、欧米の債券、現地工場への投資が魅力的」と考え、投資することを促進しなければならない。
経済的には、経常収支とはGDP的な観点から日本の輸出入(物の売買代金の収支)および所得収支が黒字かどうかを評価するものである。しかし、この評価と資金の流出入とは別物である。どうしても資金として海外に流出するものがあるのなら(家計でいうのなら、たとえば別荘を次々に建てる資金が必要なら)、それを考慮し、国内に「これだけの資金が残る」と計算しなければならない。こうして残った資金がプラスであれば日本国債は安泰なのだが、マイナスなら疑問符が付いてしまう。
経常収支が黒字かどうかだけに着目し、国債の購入代金が十分かどうか議論するだけでは心もとない。

2012/02/08


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