川北英隆のブログ

国債金利上昇と損失額の推定

昨日、国会答弁で日銀・白川氏が、金融機関(銀行)の保有する国債の金額と、計算上の損失額を述べていた。昨年末で163兆円の保有、金利が一律1%上昇した場合の損失が6.3兆円という。
手元に残存年限別の国債流通利回りがないので(ネットを調べれば分かるものの、面倒なこともあり)ラフな計算だが、白川氏の答弁からすると、銀行が保有する国債の平均残存年限(正確にはデュレーション)は約4年と逆算できる。現在の国債の平均残存年限は7年を超えてきているから、銀行が保有する国債の年限はそれよりもまあまあ短いものの、以前との比較では長くなっている。また、銀行の調達資金が普通預金や定期預金であることからすると、調達資金の平均年限よりかなり長い。
日銀による損失の算出だが、「金利が一律に上昇」というのは少しオーバーだろう。国債金利が跳ね上がったとしても、日銀はゼロ金利政策に近い状態を維持するだろうから、年限の短い国債は、長い国債と比べて金利上昇幅は小さいはずだ。他方、銀行は国債以外の債券も保有している。地方債や社債である。これらも国債金利が上昇すれば、連れて上昇するから、銀行の損失を増大させる。
また、銀行以外の金融機関やそれに準ずる機関も大量に国債を保有している。郵貯、簡保、保険会社、年金基金である。日銀の統計上、政府は750兆円の国債(実質的な国債である財投債を含む)を発行している。国債の金利が一律1%上昇したとすれば、損失額は50兆円前後になるだろう。さらに言えば、金利上昇が1%で止まる保証は皆無である。
もちろん、750兆円の国債の保有者には、日銀や公的年金も含まれており、これらは広い意味で政府の一部門であるから、損失は表面的なものである(政府が財布を2つも3つも持っていると考えればいい)。そうとはいえ、表面的な損失をどう会計的に処理するのかの問題が発生する。たとえば、公的年金が被る損失を誰が負担するのか、政府か受給権者か、それともほったらかしにしておくのか、大問題となりかねない。
国債金利の上昇に言及すると「狼少年」呼ばわりされてきたが、イソップでは最後に狼が登場する。怖い寓話であることを忘れてはいけない。

2012/02/24


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