日経から、配当利回りと国債利回りの逆転現象に関してコメントを求められた。その関連記事が28日と今日の朝刊にある。記事に掲載されたコメントに関して、もう少し説明しておく。
事実関係は、日米独の証券市場で、各国の株式配当利回り(配当/株式時価)が国債利回りを上回ってきたことにある。その図が新聞に掲載されているので、確認して欲しい。国債金利が低下する一方、配当利回りが上昇したため、逆転が生じている。
もっとも、足元の状況を見ると、日米独で違いもある。
日本の国債金利の低下はあまり大きくない。配当利回りの上昇が大きい。株価の下落が、株式と債券の逆転現象に一番寄与している。ドイツは、株価の下落と国債金利の低下の両方が同じように効いている。これに対してアメリカは、株価の下落というよりも国債金利の低下の効果が大きい。
この逆転現象をどのように考えればいいのか。
1つは、国債金利の水準に関して。中央銀行の政策金利が以前のような高い水準に戻ると想定することが難しくなった。異例の低金利政策が長期化するだろうと、投資家は考えている。だから国債金利が低下を続け、過去に例を見ない低水準に達している。先進国に成長期待が戻らないことには、金利がリーマンショック前の水準に戻ることはない。もちろん、スペインやイタリアが経験しているような悪い金利上昇のことは横においての話だが。
もう1つ、株価に関して。株式が売り込まれている、もしくは上昇しないのは、投資家が株式に対するリスクを強く意識しているか、企業業績に対する成長期待を弱めているからだ。
アメリカの場合、欧州の危機は対岸の火事であり、リスクは間接的である。むしろ、リーマンショックの後遺症と対岸の火事のおかげで、経済の成長力が削がれている。もっとも、人口の増加が続いており、これは潜在的な経済成長力にはプラスである。以上から、株価の上昇力は弱いが、かといって大きく下落しているわけではない。
ドイツはリスクが高まっている。隣家が火事だからである。経済の成長力も、庭ともいうべき欧州経済の混乱は大きなマイナス要因である。リーマンショックの前、欧州の領域拡大が経済成長への大きな期待となっていた状況とは様変わりである。
日本の場合、リスクが高まっている。国内は電力供給不安、政治危機、財政危機である。企業は海外進出に必死だが、成功するとはかぎらない。日本での事業と比べればリスクが大きい。
ということで、アメリカには近々、再逆転の可能性が残されている。ドイツは欧州危機の行方と解決方法次第、日本は当面このままの状態と考え、新聞にコメントした。
最後に、益利回り(1株当たり純利益/株式時価、すなわちPERの逆数)と国債利回りとの差が、(利益水準が変化しないと仮定した場合の)株式に対するリスクプレミアムである。このリスクプレミアムもかなり大きくなっている。
2012/07/01