川北英隆のブログ

資本コスト意識の欠如

「日本株が買われない理由」の続きである。昨日、議論していて盛り上がったのは、日本の経営者が資本コストを意識しておらず、このため日本の株価が欧米に遅れたというテーマである。
2000年頃からのアメリカ、ドイツ、日本の株価推移を描くのがいい。以前にも書いたが、リーマンショック以降、日本株だけが下がっている。
また、PBR(株価純資産倍率)が1倍を割っている大国は、イタリア、スペイン、ロシアである。ドイツやフランスはもちろん、アメリカは1倍を超えて正常である。要するに、問題を抱えた国だけがPBR1倍割れということで、日本もその仲間に入れられている。
ある事業が経常利益や税引き後利益で黒字であれば、それだけの理由でもって、その事業を行っていいのだろうか。「行っていい」と考えるのなら、金融理論・投資理論の初歩的な教科書から勉強した方がいいだろう。
企業が事業を実施するために集める資金には、銀行からの借入(社債も含めている)に加え、株式による資金がある。その株式の資金には、経済的に借入よりも不安定な地位しか与えられていない。このため、銀行からの借入金利よりも高いものを、株式に対して支払わないといけない。この議論は、株式投資家の立場からすれば当然のことである。仮に現在、1%そこそこの投資収益しか株式に期待できないとすれば、誰がそんな株式に投資するだろうか。
この株式投資家にとっての当然を、企業経営者は理解していないのである。だから、経常利益が黒字なら何の文句もないはずだと思ってしまう。しかしこれでは、株主を満足させられない。
正確に書けば、経常利益や税引き後利益の計算には、株主に対する配当は加味されていないわけだから、もしも株主資本に対して借入金利相当分だけ払ったとすれば、その瞬間に赤字になりかねない。つまり、黒字であったとしても、それは株主資本に対して借入金利未満のものしか払えない状態かもしれないわけだ。
経営者は、株主を満足させるだけの利益水準とはいかほどなのか、常に考えておかなければならない。これが資本コストを考えた経営である。アメリカでは常識でしかない。しかし、日本において、この常識を理解している経営者は何%いるのだろうか。多分、一握りだろうというのが、昨日の結論だった。

2012/08/09


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