川北英隆のブログ

今道友信氏が逝去される

今朝、メールを開くと、今道氏が亡くなられたとの連絡が入っていた。ブログで何回か今道氏に登場願った。日本アスペン研究所の機関紙に掲載されていた今道氏の随想に共感したからだ。
1つは「唖の猫」の話だった。今道氏の飼い猫のようなものだったのだろう。その唖の猫が語るかのように、差別用語に対する批判が展開されている。その批判の底流にあるのは猫をはじめとする動物に対する愛情である。愛情があるから、「差別用語」を差別のために使っていないとの文章である。むしろ言葉は、これとあれとを区別するものであり、区別できなければ意味がない。区別と差別の違いとは何なのか。
もう1つはロバの話題だった。今道氏が若い頃に海外(ドイツ)に孤独な思いで滞在したしたとき、話し相手として一頭のロバと出会ったとのこと。日本に戻って20年の歳月を経た後、たまたま会議でドイツを再訪した機会に合わせてロバのいた場所を訪ねると、年老いたロバが今道氏に近寄り、今道氏のそばを離れようとしなかったという話題だ。ロバが今道氏を覚えていたし、今道氏もロバがどうしているのかを無意識のうちに意識して訪れたわけだ。
今道氏とお会いしたのはアスペンが募集した研修会だった。ちょうど12年前のことである。今道氏他2名が講師、生徒は僕を含め、主に企業から派遣された10名程度だったと思う。研修会の目的は深い文化的教養を身に付けることだった。僕には似合わないとは思ったものの、会社命令だったので行くしかなかった。千葉は木更津の少し奥での泊まり込みだったため(「ため」というのはいかにも変な表現だが)、ついでに2つの山を歩いた。
その当時の今道氏の思い出といえば、その研修のしばらく後に理由は忘れたが研修があり、著書をいただいた(もしくは会合の参加費に含まれていた)ことだ。『ダンテ神曲講義』(みすず書房、2002年)という立派な装丁のもので、内容と一致している。記念に書棚に並べてある。その後、改訂普及版も出版されたようだが、現在は絶版になっているかもしれない。
今道友信氏とは、アスペンの研修会がなければ出会わなかっただろう。そこでは何とはなしに講義を聞き、後で随想に共感し、研修会での講義に立ち戻った。そんな思いもよらない細い糸が切れていく。仕方ないことだろう。
「ご冥福を」という言葉は適切でない。ありがとうございました。

2012/10/17


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