デフレに対して金融政策は脇役でしかない。金融政策を間違えば短期的にデフレを加速させる。しかし、日本は20年近くデフレにあり、その進行速度が遅い。金融政策によるデフレと様相が異なる。
結論は政府と企業が対応を誤ったのである。政府といっても、自民党政権下の政府である。高度成長の時代、企業にとって進むべき全体像が、その政府によって示されていたことは前回に書いたとおり。現在もそのノスタルジアが続いている。これに関して、つい先日の中国の留学生の言葉が忘れられない。「日本に来てみると、中国以上に社会主義的だった」と。要するに、個々の企業、個々の国民にしっかりとした意志がない。だから、政府の強い意志や、声の大きな政治家の意志にすぐに流されてしまう。
それはともかく、政府には少なくとも適切なデフレ対策がなかった。1990経済年代以降、内外経済の激変に後追いで対応するのがやっとだったと表現してもいい。バブル崩壊による不良債権の発生と処理、国内金融機関のシステム不安、情報通信技術の飛躍的発展、中国を初めとする新興国の猛烈な台頭、日本国内の高齢化、資源や穀物価格の高騰、サブプライムローン問題とリーマン・ショック、日本の財政危機など、これらへの対応を思い起こせば、政府が先手を打って対応してきたとは到底評価できない。後手に回り、他のことに頭が回らず、ドタバタと対応してきた。その反省もなしに「日銀が・・」との批判は、議論の本質を逸らすものでしかない。
日銀に対応を求めても仕方ないのは、前回に書いたとおりである。
結局のところ、政府が当てにできず、日銀への期待が的外れなわけだから、企業としては自分で考え、行動するのが筋だった。しかし、企業の主たる対応は、国内での生産を継続し、「人件費カット」で利益を維持するという内向きである。人件費カットは企業業績に対して短期的効果をもたらす。しかし、すべての企業が、次々に連続して人件費カットを行い続ければ何が生じるのか。個人の所得が減り、消費意欲が減退し、高い商品は売れず、安い商品に需要が集まる。その結果、商品やサービスの値引き競争が激化する。ビールと牛丼が典型だろう。要するにデフレを自ら招いたのである。
デフレへの対応は、まずは企業自身からが前向き、外向きに、創意工夫を凝らしてスタートしなければならない。政治家を含めた政府は、企業のデフレ対策に向けた行動をサポートするための見取り図を書かないといけない。企業が世界に飛躍するための障害を排除すること、これが政府の最優先課題だろう。
日銀をスケープゴートにしようという魂胆では、日本はますます内向き、自己防衛的になる。悲しいことである。
2012/11/26