もう1つ指摘しなければならないのは、「ものづくり日本」を強調する風潮だろう。この時代における「ものづくり」とは何なのか。結論は、文化遺産的な伝統工芸か下請けでしかなくなりつつある。
マイクロソフト、グーグル、アップル、アマゾンという、ベンチャー企業から巨大企業へと急成長した代表的4社の共通点は何なのか。
1つは情報の処理を武器にしていることである。インターネットを舞台に事業を展開している。もう1つは、製造業でありそうでいても、そうではないことである。自ら手がける領域は、それが「製造」であったとしても、ほんの一部である。4社が本当に手がけるのは、「仕掛け」という高付加価値分野だと思える。残りの部分は、適切な外部企業を実質的な下請けとして指名し、安価に役割発揮させている。
以上は表面的な特徴を指摘したにすぎないかもしれない。マイクロソフトはともかくとして、他の3社は分散していた(集中しようにもできなかった)個々人の情報や行動を、自社の情報処理の中に取り込もうとしている。個々人の情報は(当然であるが)依然として分散したままでありながら、グーグルなどはそのエッセンスを自らの情報として吸い上げ、利用している。4社の中でマイクロソフトに精彩がないのは、この情報の集中において出遅れたからかもしれない。
もう少し考えてみると、個人の行動において、実際に製品やサービスを購入する頻度は低い。頻度が低いというのは、購買という情報発信以外に、もっと多様な情報を、たとえば製品内容や値段を問い合わせてみるとか、友達と言葉を交わすとか、いろんな行動をしているからである。この多様な情報を、それも独占的に集め、分析できれば、革新的なビジネスモデルが生まれる。
では、日本企業はどうなのか。「ものづくり日本」にこだわるかぎり、マイクロソフトでさえ神様に見えてしまう。今後、「ものづくり日本」は奈良の墨や筆、京都の西陣織や扇子に委ねればいい。現在の日本の上場企業に必要なのは、一旦「ものづくり日本」から離れ、世界の潮流を見つめることだ。
そうでないと、どうなるのか。伝統工芸は生き残るだろうが、ちまちましたままである。一時期、世界を席巻した日本の製造業は、上の4社のような世界企業の掌の中、下請けと化してしまい、低収益に陥るのが落ちだろう。自動車でさえ、運転情報が中央に集約され、その後に個々の車両に運転指令が来るという時代が来るかもしれない。そうなれば、複雑な機械装置を自動車に備える必要性が消滅する。そうそう、電力におけるスマートグリッドも、以上と同じ流れにある。
2012/11/18