川北英隆のブログ

証券アナリストの仕事の醍醐味

証券アナリストとして企業分析の仕事を5年間行った。1979年から83年までである。その傍ら、株式市場全体の分析もしたし、企業分析の一環として非上場企業も扱った。株価上昇期で楽しかった。
省力主義だったので、企業を訪問して話を聞くことは多くなかった。言い訳しておくと、上場企業の場合、当時は一部の企業を除いて値上がりするのが当たり前だったので、とんでもない企業への投資を避けることが一番重要だった。また、企業が決算説明に定期的に来てくれたので、その時に質問することもできた。
とはいえ、印象に残っているのはやはり企業を訪問し、さらには工場を見学したことだろう。実のところ、証券アナリストとしての5年間を含め、見学した工場はいくつもある。思い出すままに書いておくと、紡績工場、化学工場(これはパイプラインだけでつまらない)、外用医薬品工場、建設機械工場、石油精製工場、鉄鋼所、銅製錬所、アルミ製錬所、電線工場、新聞社(印刷工場)、工作機械工場、印刷機械工場、溶接・組立ロボット工場、半導体検査機器工場、自動車組立工場、発電所(福島第一原発)などだろうか。趣味の関係でセメント工場も間近に見て知っているつもりだ。
工場や企業に行くと、その企業の顔がよく見える。社員がどの程度教育されているのか、働く意欲が本当にあるのか、それらを過去に見てきた企業と比較すればいい。また、企業ノウハウの一端が垣間見えることもある。数値情報だけではない企業の定性的な情報が得られるわけだ。それらの定量、定性情報を総合し、投資の可否を判断することになる。
いい時代に証券アナリストを経験したので、大きな判断の誤りは少なかったと思う。最大の誤りは、某ベンチャーのオーディオ機器メーカーが仕掛けた粉飾経理を見破れなかったことだ。上場企業のインチキくさい決算を見て事前に投資を避けてきただけに、この1回の誤りは今でもくやしい。
その社長から説明を受け、オーディオの音を聞かせてもらっているときに、大音響の振動で埃が舞い上がったのだろう、かなり咳き込んでしまった。一緒に訪問していた今は亡き同僚T君が、「あの咳が警告だったのかも」と反省していたのが忘れられない。

2012/11/10


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