川北英隆のブログ

それでもリスク無視が続く

博士課程の学生と話をしていると、某損害保険系のアセットマネジメント会社が無謀なことをしているとのこと。保険リスクのある投資対象を債券のみの経験者が運用しているらしい。
その投資対象とは、保険リンク証券(ILS、insurance linked securities)と呼ばれるものである。地震保険など大災害の保険とリンクしている場合はCATボンド(ネコ債券ではなく、catastrophe linked bondのこと)と呼ばれる。ネコは大人しそうなふりをしていながら、いきなり引っ掻くからCATボンドなのだろうか。
ILSは証券化の手法によって債券の姿をしている。しかし、その裏側に保険リスクがあり、ILSへの投資家は保険会社と同じ機能を担わされている。正確には地震保険などを引き受けた保険会社が、そのリスクを投資家に移転している。このため、特定の(その保険の契約条件となっている)大地震や洪水などが起きれば、ILSの元利金が吹っ飛んでしまう。ということは、債券の条件と一緒に保険契約の分析が必要となるのは当然のことである。
それを無視し、普通の国債や社債しか扱ったことのない者が、顧客のために「保険リスクに連動した債券」に投資すれば、アセットマネジメント会社としての不注意さが問われかねない。その投資サービスを受けているのは年金が多いはずだから、またまた年金の資産が痛むかもしれないわけだ。
証券化は2007年に表面化したサブプライムローン問題で一躍悪役として扱われてしまった。ILSへの投資で再び悪名を高めてほしくない。というのも、証券化は優れた金融技術なのだから。悪いのはリスクを無視した投資家であり、リスク移転を前提に無謀なリスクをとった住宅ローン専門機関や、そのリスクを甘く査定した格付機関がいたからである。
注意深いアセットマネジメント会社なら、保険(とりわけ損害保険)に精通している担当者がILSへの投資の可否を判断し、ポートフォリオを作りあげないといけない。また、投資を委託する機関に対して十分なリスクの説明も必要となる。この点、某損害保険系のアセットマネジメント会社の実態はどのようになっているのだろうか。

2012/11/23


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