最近、ペイアウト政策に関して研究者および実務家と議論した。ペイアウトとは、企業が配当と自己株取得によって投資家に資金を支払うことである。このペイアウト政策が株価に影響する。
配当と自己株式取得のための資金は企業の税引き後利益から支払われるのが基本である。理論的もう少し正確に説明しておくと、企業は毎年の営業利益からまず税金を支払い、次に成長に必要な投資資金(設備投資や運転資金)を内部留保し、その後に残った資金(これをフリーキャッシュフローという)を投資家に支払うのである。投資家に支払われるものとして、最初に負債に対する金利がある。そして、「フリーキャッシュフローから金利を控除した残り」が株主に支払われる。この株主への支払いがペイアウトである。
ここで、理論を離れ、現実の話に戻る。金利の支払いは借金をした場合に当然なので(払えなければ倒産なので)、ペイアウト政策とは、配当と自己株取得の組み合わせ方の問題である。また、企業はフリーキャッシュフローを100%、きちんと投資家に支払うわけではない。出入りがある。
この現実において、ポイントは次のようにまとめられるだろう。
第一に、成長戦略を描くことである。このとき、「儲かる事業」に投資することが重要となる。「儲かる」という意味は、単純に会計上の赤字が出ないということではない。負債はもちろん、内部留保を含めて株主資本にはコストが伴う。そのコスト(言い換えれば資本コスト)を計測し、それを上回る利益が事業から生まれないといけない。日本企業はこの資本コストの認識が非常に甘い。企業金融の基本を知らないのではないかとさえ思える。
第二に、配当は安定的なことが望まれる。減配は株価に大きなショックを与えかねない。このことは、ペイアウトの調節役として自己株式取得を位置づければいいことを意味する。つまり、配当は企業の成長とともに徐々に増やしていき、景気の変動によるフリーキャッシュフローの変動部分は自己株式取得の変動で対応することが望ましい。
第三に、フリーキャッシュフローの何%をペイアウトするのかは、現預金とその同等物(有価証券など)、すなわち手元流動性をどの程度保有すれば十分なのかに左右される。
手元流動性の保有量は、企業が営む事業のリスク(景気の変動によって受ける影響度)に依存するだろう。リスクが大きく利益の変動が大きいのなら、将来やってくる不況時に備え、厚めの手元流動性が必要となる。設備投資関連の企業がこの代表である。必要な手元流動性が積めるまでは、フリーキャッシュフローを100%ペイアウトさせることは望ましくない。
逆に、利益の変動が少ないのであれば、手手元流動性を厚くすることは資本の効率性を低下させるだけだから(つまり資金を金庫に寝かせておくことに等しいから)、フリーキャッシュフローを100%ペイアウトさせることが望ましい。消費関連企業がこの代表である。さらに言えば、現在、厚い手元流動性を保有しているのなら、100%以上ペイアウトさせること考えないといけない。このペイアウト政策により、株価も上昇するだろう。
2012/12/07