今年9月、日本の経常収支が瞬間的に赤字になった。10月に再び黒字に戻ったが、力強さに欠ける。そこで、国際収支の動向を少し分析することとした。
国際収支統計において、瞬間的とはいえ経常収支が赤字になった要因は、貿易収支の赤字基調による。毎月5000億円程度の赤字である。これは、貿易統計の輸出入差額が赤字を続けているのと同じ意味である。もっとも、国際収支統計と貿易統計には微妙な相違点がある(たとえば、運賃・保険料等の諸経費について、国際収支統計ではサービス収支に計上されるが、貿易統計では輸入品の金額に含まれている)。
経常収支に与える貿易収支の影響は非常に大きいものの、それだけで経常収支が赤字に向かうものではない。サービス収支と所得収支も確認しておく必要がある。
日本のサービス収支は元々赤字であるが、2010年頃からその赤字幅が拡大している。現在、毎月2000億円超の赤字にある。赤字幅が拡大しているのは、海外籍の貨物船に支払う輸送代金の増加が背景にある。また、タイの洪水被害に対する保険金の支払い、資源開発に伴う経費の支払いの増加も影響しているらしい(ロイターの記事による)。
所得収支(この大部分は投資収益)は12000億円程度の黒字である。この黒字が、日本の経常収支全体としての黒字を支えている。内訳を見ると、リーマン・ショックと、それ以降の世界的な金利水準の低下により、債券利子の受取り超過額は減少を続けている。これに対し、株式配当金の受け取り超過額は増加基調にあり、最高額を更新する勢いである。一方、企業の直接投資からの収益は、水準は高く、増加しているものの、株式配当金ほどの勢いがない。
では今後、どうなるのか。
貿易収支の赤字基調は続くだろう。原発の再稼働の時期が依然として不透明であることの影響が大きい。予定されているように電力料金が値上がりすれば、企業の海外生産志向が加速し、それが輸出の抑制要因となる。こうなれば、貿易赤字の拡大も想定しなければならない。
一方、サービス収支は現状程度として、問題は所得収支である。世界的な金利水準の低下の影響はこれからも続く。つまり、債券利子の受取り超過額の減少である。これに対し、海外株式投資の増加が続いていることと、海外直接投資の拡大による投資収益の増大がある。もっとも、前者の海外株式投資へのシフトには限界がある。国内株の枠を海外に振り向けている程度だからである。後者は、現地での利益を再度現地に投資する動き(言い換えれば海外生産志向の強まり)に留意すべきである。
以上からすれば、今後の日本の経常収支は、現在と同様にわずかな黒字で推移し、月によっては赤字もありえよう。貿易動向によっては赤字基調に転落することも考えられる。
さらに、念頭に置かないといけないのは、海外直接投資の資金がどこからもたらされるのかである。基本は、経常収支の黒字部分が海外に流れることになるが、それで不足するのなら、「日本から海外に実質的に資金が流れる」ことになる。つまり、円を売って外貨を買うニーズが強まる。
2012/12/16