地図を広げると、ベトナムは南北に細長い。面積は日本より1割程度狭く、人口は9000万人近いから、人口密度の点で日本とほぼ同じである。その国土に狭義のベトナム人と少数民族住む。
今回訪ねたのはハノイ近郊と、ハノイから紅(ホン)河を中国雲南省との国境まで遡った地域である。国境の町はラオカイという。この中国との国境地域にはモン族(中国名での苗族と同じ)が多く暮らしている。今回はザオ族も見た。
このうちモン族は、現地ガイドの説明によると「かわいそう」とのこと。1979年の中越戦争の主戦場の1つが今回訪問したラオカイである。その国境での戦争において、モン族が中国側とベトナム側に分かれて(分けられて)戦ったことをガイドが「かわいそう」と表現していた。
一方、ザオ族は独自の文字文化を残している。ベトナム語は漢字の影響を受けているが、現在ではアルファベットに声調を記したクオック・グー(国語のベトナム語読み)が使用される。その中で、ザオ族は依然として漢字を使っている。
周辺国との関係も複雑なようだ。中国との関係は良くない。そもそも歴史の最初から、北部ベトナムと中国との境界はあいまいである。歴史の流れが変わっていれば、チベット同様、ベトナムが中国の領土になっていたかもしれない。実際、現地ガイドは、中越戦争によって北部国境地帯の一部が中国領になったことを指摘していたし、西沙、南沙諸島に中国が触手を伸ばしていることを「長い舌のようだ」と非難していた。
カンボジアとの関係も良くない。こちらはベトナムがカンボジアに侵入する側に立ってきていた。ラオスとの関係は不明だが、ベトナム戦争時に北ベトナムとの関係が親密だった(南ベトナムへの輸送経路を提供した)ことから、比較的良好なのだろう。
敵の敵は味方ではないが、この点で日本との関係は良好である。とはいえ、今後の日本との関係において、ベトナム国内がかかえる課題が浮上するだろう。1つは、これは周知のことであるが、憲法上、政治はベトナム共産党による一党独裁であり、大いなる贈答文化でもある。北朝鮮よりはましだがとは、これも現地ガイドの表現だった。
その共産党員になれるのは北部ベトナム人(自主的であれ強制的であれ、ベトナム戦争時にアメリカに協力しなかった国民)に限定されているとのこと。国家公務員もそうらしい。このため、北ベトナム人には贈答によって金持ちになれる道が開かれている。南ベトナム人にはそのような道はない。これは国内の南北格差問題である。
とはいえ、経済的、産業的に豊かなのは南である。そもそも気候面での豊かさもあろうが、経済体制の問題も大きく影響しているのだろう。このように、身分と経済の関係が逆転しているのは大いなる皮肉である。寄生経済と自立経済の差だろうか。とここまで書いて、そういえば今日の日本経済は国に頼ることばかり考えているので、寄生経済に陥りつつあるのではと思い至ってしまった。
2012/12/31