ベトナムの1人当たり国民所得は日本の1/40程度、タイの1/3弱である。この意味では貧しいが、どこまで本当だろうか。ベトナムでは農業が依然として主要産業であることに注意すべきだ。
統計上、ベトナムの農業は国内総生産の20%を超えている。鉄道でハノイから雲南と国境を接するラオカイまで移動したが、ハノイ近郊を除いて田園が延々と続いている。13年前にサイゴンに行った時も、サイゴン市内を離れると田園地帯が続いていた。
写真は列車から撮った農家である(列車のガラスが曇っていたので写りが悪い)。
家があり、パパイア、バナナ、ミカンなどの木が植えられ、田畑が広がる。そこには水牛、ニワトリ、アヒル、豚が放し飼いにされている。また、この写真には写っていないが、農家には必ずといっていいほど池があり、魚を飼っているようだ。つまり、多くの農家は自分で日常生活に必要な食べ物を作り、食べている。残りを市場で売る。この分、統計以上に豊かと思っていい。国内総生産(GDP)の定義上、自家消費はGDPに加えられるが、そんなのいい加減にしか扱われないのは確かだ。
それに家がボロいからといって、暖かな(ハノイの1月の最低気温の平均は14度)地域に立派な家は必須でないことにも注意が必要である。
東南アジアの男は働かないのが普通である。それは生活のために必死に働く必要がないからにすぎない。ビルマのように男子の多くが僧侶になり、托鉢してでも食べていけるのは、豊かさがある証拠である。ベトナムがアメリカ軍を打ち破るほどに粘り強かったのも、豊かさがあったからだと思える。この点で、アフリカなどの乾燥地域の「貧しさ」とは性質が異なっている。
あくせく働く必要のある日本と比べ、どちらが幸せなのか。じっくり考えてみることも有意義だろう。そういえば、ベトナムの放し飼いのニワトリの肉は弾力があって美味かった。日本の商社がベトナムでブロイラーの生産を始めるとニュースにあったが、そんな鳥臭いだけのニワトリがベトナムを席捲した分には、かつての日本のように、豊かさから貧しさへの転落かもしれない。
2013/01/02