今朝起ききると、円が対ドルで89円に接近していた。これを書いている途中で89円にも乗りそうな勢いである。何故なのか。新政権の手品なのか、それとも実態なのか。少し考えてみたい。
円安に転じた理由として新聞で報じられている理由は、日銀に対する自民党の脅しが効いて金融緩和が一段と進む、そもそも購買力平価で見て円高すぎたという2つが代表的だろう。
まず簡単な後者の理由から。購買力平価に基づく説は、これはいい加減である。円高に進んだ時も購買力平価が説明材料として使われた。そもそも、ここでいう購買力平価とは、過去に国際収支が均衡していた頃を基準に、その後の物価の推移を勘案して算出される。どの時点を基準にするのか、物価として何を用いるのかによって大きな差異が生じる。たとえば、国際通貨研究所が算出した結果(http://www.iima.or.jp/research/ppp/index.html)を見ても幅がある。さらにいえば、基準年と現在とでは経済や貿易の構造が大きく変化してしまっているわけだが、そんなことを無視した計算結果でしかない。ということで、購買力平価は1つの参考情報にすぎない。
後者の、日銀による一段の金融緩和に基づく説はある意味で正しい。しかし、表面的な説明でしかない。何故、金融緩和なのか、金融緩和しろと脅すのか。
それは、日本経済が弱いからである。アメリカ経済はよろよろしながらも回復しつつある。ヨーロッパもとりあえず自力で最悪を免れた。中国は政府が我が身に降りかかる批判を事前にかわすために経済対策に必死である。これらを受けて日本経済の悪化も底が見えたようであるが、あくまでも他力本願の底打ちである。先読みすると、世界経済が回復に向かって明確になることは、日本が独り遅れている事実である。強制的な金融緩和は、この「日本の孤独感」を紛らわすというか、世界に追い付くために必要な手段だと新政権は考えているのだろう。そこまで考えていないとしても、そう直感しているのだろう。
言い換えれば、これまでの円高は「消去法による円買い」だった。世界経済が回復に向かえば、円以外に買うべき通貨が出現する。別に円を買う必要性はない。むしろ、円を売り、積極的に買える他の通貨に資金が流れる。これが現在進んでいる円安の真相だと考える。
(書き終えた時点では89円には乗らず、アップした直後に乗った。)
2013/01/11