川北英隆のブログ

崩れゆく自然遺産シミエン

アフリカに対する危惧がある。内戦や武装集団の跋扈による政治と治安の混乱だけではない。一応政治的に落ち着いているエチオピアでさえ、旅行するだけで問題点がすぐに見えてくる。
人口の爆発が貧しさを際立たせていることは既に述べた。その貧しさが自然の崩壊につながっている。代表的なのがラスダシャン山のあるシミエン国立公園である。1978年、この地域は世界遺産に登録された。その後、1996年に危機遺産にも登録された。
自然遺産となった大きな理由は特異な地形が織りなす地形と植物であり、そこに棲息する動物である。よく見られる植物はキキョウ科のジャイアントロベリア、動物ではゲラダヒヒである。少し珍しい動物としてワリアアイベックス(Capra ibex walie、ヤギの仲間)がいる。上の写真ゲラダヒヒ、下はジャイアントロベリア(ヤシのように見える木)の間を歩くワリアアイベックスである。
シミエン国立公園はエリトリアがエチオピアから独立する時に戦場となったとのこと。僕の持っているガイドブック(Climbers and Hikers Guide to the World's Mountains、1990年版)には戦争中なので入るのが難しいと書いてある。これがシミエンの荒れた1つの理由である。もう1つの理由はラスダシャン山の山頂近くまで放牧され、4000メートル付近まで人が住んで入ることである。生活のための燃料は枯れた穀物の茎や薪である。薪にするため、外来種であるユーカリが育てられている。また、生活のための道路(未舗装)が縦横と言えるくらいに通っている。この上を主にロバが荷物を運ぶ。
ジャイアントロベリアをはじめとする何種類かの固有種は食べられないから残ったのだろうが、他の植物は放牧によって食べられ、アイベックスが減り、さらに小動物も減っているのかもしれない。かつてよく見られたというアビシニアジャッカルの数が激減したとのことだが、小動物が減ったことも理由だろう。
ついでに思ったことだが、カンボジアの例のように、内戦があると地雷が埋められ、危険になるとのイメージがある。しかし、シミエンではそんな危険はない。公園内ではレインジャーが銃を持って同行するが、地雷に対する注意は一切なかった(そもそも危険な動物もいないし、何のためにレインジャーが付いて来るのか不明。ひょっとして入園料みたいなものなのか)。貧しい国の戦争だから、地雷を使う資金力さえなかったのかも。
日本のように資金の使い方を知らない国の自然は荒れるが、貧乏な国の自然も荒れる。前者は既得権益の障害というか妨害が大きく、後者はそもそもの問題である。
ゲラダヒヒ.JPG

ワリアアイベックス.JPG

2013/03/30


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