三瓶山から下りると、登山口の向いにいきなり国民宿舎「さんべ荘」があった。登山口からすぐだとは知っていたが、いきなりは珍しい。登山口の向いは裏口で、入口には1分ばかりかかるが。
国民宿舎はえらく繁盛していた。観光客だけではなく、地元の宴会場になっている雰囲気だ。黄色ナンバーの車がいっぱい駐車していることでも、地元からの多さが推察できる。実のところ、今回はこの国民宿舎に泊まりたかった。でも混んでいたことと、代わりに近くで見つけたホテルは、高いわりに「豚肉のしゃぶしゃぶ」がメイン料理だったことを大きな理由に、温泉津まで足を伸ばすことにした。その温泉津が正解だったことはすでに書いた。
温泉に浸かりたくて三瓶温泉のフロントまで行った。「湯は使えるの」と聞こうとした瞬間、「入浴500円」の案内が目に入った。浴場に行くと、ロッカーがある。宿泊ではなく、ふらっと温泉に浸かるだけの場合、貴重品をどうするのかが大きな問題になる。ロッカーがあると、この問題もほぼ解決だ。
貴重品をロッカーに入れ、リュックは脱衣場にそのまま置いて、温泉に入った。泉質は、鉄分が多く、赤茶けている。源泉の温度は35度くらいとか。浴場の中にはいろんな露天風呂がある。浅い鉄釜を使った五右衛門風呂や、芋代官風呂と称した檜の湯舟もあった。「へえっ、しょうもない代官が天領の石見銀山に赴任していたんや」と思ったところ、これは間違い。芋侍の芋ではなく、飢饉の時に芋の栽培を奨励して領民を救ったとのことで、「芋代官さま」と、尊敬と親しみの念を込めて呼ばれていたという。
そんな温めの五右衛門風呂に浸かり、雨模様を予感させる五月の風に吹かれていると、しょうもない仕事を忘れられ、本当に気持ちいい。鉄分の錆びた赤い色は、日常の垢というわけだ。
2013/05/21