川北英隆のブログ

デフレ脱却に関する認識の誤り

昨日と一昨日の日経新聞に、デフレとデフレ脱却に関する認識の誤りがあった。一昨日の誤認識は、5面「脱デフレへ前進」との見出しの記事。7月の企業物価の上昇を好意的に評価していた。
7月の企業物価指数において、最終財の価格が前年比で3.3%上昇したことを、記者は「脱デフレへ前進」と受け止めたわけだ。しかし、記事を読むと、「円安に伴う燃料や原材料価格の上昇分を取引価格に転嫁する動きが産業界で広がってきた」とある。このような要因で製品価格が上昇することを「脱デフレの動きであり、喜ばしい」と評価していいのだろうか。
もちろん、値上げできる条件が整わないと簡単に原材料価格の上昇分を製品価格に転嫁できないは確かである。しかし、本当の脱デフレとは、付加価値の高い商品が売れることではないのか。これまでと同じ製品の価格が高くなり、その背景に円安があるからというので、「嬉しい」とはしゃぐのでは馬鹿げている。ということで、この新聞の見出しは「偏向」している、安倍ちゃんを故意に持ち上げているとしか思えない。もう少し客観的に見出しを書くと、「円安の悪影響、価格転嫁が進む」だろう。
昨日の誤認識は桃李氏の大機小機「消費増税はブレずに」である。その消費税に対する主張はともかく、気になったのは「もともとデフレ脱却は金融政策の課題で、・・消費動向とは直接関係がない」との文章である。これは間違った認識である。
そもそも今回のデフレは金融的な現象ではなく、実物経済での現象である。日本の場合、家電に象徴される競争力の喪失から企業収益が低迷した。この苦境を企業は、製品競争力の回復ではなく、係長程度の貧弱な発想に立ち、明けても暮れても雇用削減や賃金カットで乗り切ろうとしてきた。このため、個人消費が萎縮し、製品に対する国内需要の落ち込みが続いたのである。これが、日本でのデフレがこじれた大きな要因である。
こう考えると、デフレから脱却できるかどうかは、企業が変身し、競争力の向上によって利益が増え、賃金が上昇するかどうかにかかっている。「デフレ脱却は消費動向とは直接関係がない」とは、現実を直視せずに、そこらの学者の言葉を鵜呑みにした結果だろう。鵜さんに謝ろう。

2013/08/15


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