8/15のデフレ脱却に対する質問と反論を兼ね、メールがあった。それに答えつつ、これまで真面目に考えなかった「インフレ」の定義と意味について、大文字山で考えた。何故、インフレが望ましいのか。
そもそも、ノーマルな物価上昇が望ましい理由を理解できないことには、インフレとデフレに関する議論の基準が定まらないからである。2%の物価上昇が望ましく、10%が望ましくないのは何故なのか。まあ、厳格には決められないとは思うが、それなりの区別はできるはずだ。
利尻での勉強会で、原油価格の上昇と望ましい原油消費量に関する動学的研究が報告された。その時思ったのは(僕からの質問事項でもあったのだが)、原油の埋蔵量(採掘可能量)が時間の経過とともに増えていることである。つまり、原油価格の上昇にともない、採掘可能量が増えてきた事実である。もう少し広範囲に眺めると、価格の上昇、正確に言えば主要資源(燃料、食料等)の価格上昇が世界経済の発展とともに生じている、これが歴史の教える1つの現実だと思う。
経済が発展し、購買力が増大するにつれ、必然的に主要資源への需要が増大する。その結果、短期的に価格が上昇するのだけれど、少し時間の流れを意識して考えると(言い換えれば動学的に考えると)、価格が上昇傾向になければ、新たな供給能力の増加は生じない。農作物では、それまでよりも水や気温や労働供給の観点から効率の悪い農地の開墾が必要となる。原油を初めとする鉱物資源の場合、採掘条件の悪い資源に手を付けないといけない。労働力も同様であり、農村から都市へ、女性の参入をと考えると、追加の賃金支払いがないと十分な供給はないだろう。このような供給能力の増加は、価格の上昇がないと実現しないことが多い。
つまり、経済発展には物価や賃金の上昇が必要となる。その物価上昇率は、一国経済の海外への開放度にもよろうが、高成長は高物価上昇率と親和性が高いことになる。これに対し、物価の下落は経済発展と逆の動きだから、望ましくないし、生じないに超したことはない。
以上のように考えると、物価上昇率には「望ましい水準」がある。経済成長率に応じて望ましい金利水準があるのと同様である。本来のインフレとは、その「望ましい水準」を上回った状態と定義すべきではないかと思う。デフレは「望ましい水準」を下回った状態である。当然、経済成長は賃金の上昇をともなうのが自然である。賃金の上昇をともなわない物価上昇、たとえば円安や輸入している資源高によってのみもたらされる物価上昇は経済にとって望ましくない。
まとめれば、表面的に物価上昇率がプラスになったからといって、喜ぶことはできない。この意味で、円安や資源高による物価上昇を見て、「脱デフレ」と積極的に評価するのは変な議論である。この結論は前回と同じである。
2013/08/17