消費税率引き上げに関する景気対策として、復興特別法人税の前倒し廃止案が浮上している。その一方で、復興特別所得税は議論の俎上にも載らない。筋違いな政策としか思えない。
復興特別税は言わずもがな、大震災からの復興のために使われる。実のところ、公務員、準公務員の給与も大震災という錦の御旗によってカットされた。「痛いけど、大震災からの復興に使われるのなら仕方ない」と思い、皆は大した文句も言っていない。
もちろん、復興と銘打ちながら関係のないことに予算が使われている実態もあったし(今もあるかも)、給与カットされるのが何故公務員だけなのかという疑問もある。また、大震災による被害と死者はともかく、原発の事故さえなければここまで複雑骨折化した事態に陥らなかったのだから、歴代の政権担当者の責任をもっと明確にすべきだとの議論もあるだろう。
復興特別税は、政府文書によると「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保」を目的に対象や税率が決められた。それにもかかわらず、「復興特別法人税の前倒し廃止」とは意味不明である。
まず、復興に必要な財源はどうなるのか。「他の財源によって手当てする」ということなのだろうが、それなら、「復興特別所得税もそうしたら」と言いたくなる。別財源に頼るのなら、復興のための財源全体を別枠で確保する意味がないわけだから。
それとも、復興に必要な財源の計算が(民主党政権の下での計算だったので)間違っていたと言うのかもしれない。それならそれで、財源の計算を明らかにしてほしい。
復興特別法人税の廃止は日本の競争力を高めるための政策の一環だと説明される。これも変な議論である。法人税率を引き下げたいのなら、それを真正面から、今すぐに議論すればいい。新聞によると、「2015年度以降に法人税率そのものの引き下げを検討する」らしいが、これもよく理解できない。いわば決められない政治の復活だろう。要するに今回の措置は、確保が容易な財源から景気対策費を捻出しただけであり、バッチワークでしかなく、抜本的な改革とは正反対、つまり真逆である。言葉遊びをすると、折れ曲がった第三の矢か。
20日1面の某N新聞の論調も政府寄りであり、偏りがある。論調を要約しておくと、「法人税は最終的に個人に転嫁されている」、「高い法人税率が雇用や賃金を抑制する」、だから「法人減税は個人の利益にもなる」と。また、「復興税の前倒し廃止は税制全体の抜本改革につながる一歩」との期待感もこめられている。
最後の論調に対する疑問から始めると、これは同じN新聞の記事(3面)にもあるのだが、今回の復興特別法人税の廃止は「法人税率の本格的な引き下げに関する議論を先送りしたい」との勢力との政治的決着(妥協)だった節がある。とすれば、やはり「折れ曲がった第三の矢」と思える。税制全体の抜本改革とはほど遠い。
最初の論調「法人の利益は個人の利益として巡ってくる」というのは、迂遠な、風と桶屋の関係である。雇用や賃金の問題は、もちろん法人税率と無関係とは言わないが、そもそもは日本企業の活力不足が最大の原因である。極論すれば、税率の高い国を避け、低い国に疎開するくらいの知恵(悪知恵?)がないと、日本企業は世界での競争を戦えない。さらに言えば、法人から税金をとらないのなら、個人から税金が取られることになる。法人の税負担軽減は個人にとって嬉しい流れだけを作るものではない。ということで、復興特別法人税の廃止がもたらす一局面だけをクローズアップして議論するのは止めてほしいものだ。もっと視野を広くし、論説すべきである。
2013/09/23