川北英隆のブログ

公的年金を弄ぶな2

公的年金の資産運用はどうあるべきか。これを考える上で、公的年金の性質を十分に考慮すべきである。現在の公的年金は、基礎年金部分と報酬比例部分に分かれており、この点が重要だ。
公的年金の性質を考える上で、この公的年金制度をもう少し説明するのがいいだろう。
基礎年金部分は20才以上、60才未満であれば強制加入である。国民福祉の一環として、日本政府が国民に対して最低限の老後の生活を保障する制度と位置づけられる。言い換えれば、日本政府は年金の支給義務を負っているに等しい。なお、平均的な年金の月額は5.5万円である。もちろん財政が破綻状態に陥れば支給停止も理論的に可能なものの、その場合は社会が大混乱するだろう。この基礎年金の保険料は国民が半額を支払い、残り半額は国庫補助となっている。国民が支払う保険料は税金に近い性質のものと言える。
一方、報酬比例部分は基礎年金に上乗せされる。老後のより豊かな生活を目指す制度である。厚生年金・共済年金の場合、この報酬比例部分も強制加入である(つまりサラリーマンや公務員はこれらの年金の保険料を給与から天引きされ、積立をさせられる)。もっとも、この保険料の半分は原則として事業主が負担しないといけない。ということはサラリーマンや公務員は制度にひれ伏して感謝すべきなのか。否である。制度がなければ事業主の負担分は給与に上乗せされていたかもしれず、「制度に感謝感激」とは言い難い。賃金の後払い的な要素が含まれている。
さて公的年金の資産運用である。基礎年金部分は国の支払い義務があり、保険料が税金に近いとすると、それを運用してもしなくても関係ないと考えられる。形式的に積立金の金額を認識するとしても、それに見合う資産は国債で十分であり、それ以外の資産で運用すべきものではなかろう。もちろん国債以外で運用してもいいのだが、その場合は国として相当の覚悟が必要だ。
これに対し、報酬比例部分に「賃金の一部の強制積立」、「賃金の後払い的な要素」が含まれているとすれば、その運用は年金加入者の利益のためにあるべきと言える。伊藤氏が主張するように(正しい主張であるが)、国債に金利上昇リスクがあるのなら、国債を運用対象から外すことも検討しないといけない。国内株式と海外株式にどちらに投資すべきなのかも十分検討しないといけない。日本と世界経済の中長期的な状況に応じて、報酬比例部分の運用の基本方針を弾力的に見直さないといけないわけだ。
現実の公的年金の運用は固定的であり、「国債並みの低リスク」での運用を目指すとしてきた。つまり、国債のリスクを議論の対象としてこなかった。真面目に報酬比例部分の運用を考えるのであれば、「国債での運用ありき」との現在の原則を再考すべきである。
この再考がなされれば、公的年金のポートフォリオは伊藤氏が提案するようなものになるかもしれない。しかし、伊藤氏の議論には公的年金の性質の考慮がない。この点が残念であり、議論に混乱をもたらしていると思える。

2014/04/26


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