川北英隆のブログ

公的年金を弄ぶな3

昨年11月の公的年金の資産運用に関する有識者会議の議論で物足りないのは、そこに運用対象資産の性質に関する議論がないことである。多様な新資産運用対象の提示も、これでは陰が薄い。
現在の年金の典型的な資産運用の対象は、国内債券、国内株式、海外債券、海外株式の4つである。この4つは、資産運用理論においてアセットクラスとして位置づけられている。そして、この各アセットクラスに資産全体の何%を配分すべきか、資産運用に先立って大枠が決められる。この大枠が基本ポートフォリオと言われるものである。
問題は、アセットクラスとは何かである。結論だけを示しておくと、「アセットクラスとは同じような値動きをする資産の塊」である。ここまで書くと、「国内株式と海外株式は異なったアセットクラスなのか」との疑問を抱く読者が出てくるだろう。実際、内外株式の値動きの同質性が高まっているとの分析も多い。これに関連して、非常に身近な事例を挙げると、日本経済を牽引している自動車業界の海外での売上高比率が5割を超えており、業績は国内というよりも海外次第である。株式を内外に分けて「違う値動きをする」と考えるのは時代遅れになりつつある。
公的年金のこれからの資産運用は、内外株式を1つのアセットクラスとすべきである。小松とキャタピラー、トヨタとGM、日立とGEといったグローバルな企業比較が重要となる。そうでないと、本当の資産運用と言えないことは誰の目にも明らかだろう。
こう書くと、「為替レートがあるのでは」との声があろう。実のところ、海外株式の為替レートの変動は、海外債券投資に含まれる為替レートと一緒にして、コントロールすることが望ましい。株式、債券の為替レートといっても同じ為替であるのだから、為替レートという新しいアセットクラスを作ることである。
有識者会議の報告書には以上の議論が欠如している。事務局にこういう発想がなかったのだろう。もちろん、プライベートエクイティ、インフラ投資などを新しい投資対象として指摘したこと、スチュワードシップ・コードへの言及、新しい株価指数の提案等を評価しないものではないが、アセットクラスの枠組みの見直しと比較すれば枝葉末節としか思えない。
もしかすれば内外株式を1つのアセットクラスとすべきことに、会議の事務局かメンバーの誰かが気づいていたのかもしれないものの、この有識者会議の目的が「国内経済、国内株式を盛り上げることにあった」ため、あえて触れなかったのかもしなない。しかし、そうだとすれば、「グローバル化」を声高に叫んでいる内閣の方針は紺屋の白袴、有識者会議において「グローバル化はどこに消えたんや」と思えてしまう。
「公的年金を弄び、国内株のPKO(price keeping operation)に使わんといてくれや」、「PKOなんかやったらいつか大損すんで」「国民が積み立てた資金をもっと真面目に使えや」と文句を言いたいものだ。これが3回続けて「公的年金を弄ぶな」と書いた理由である。
実のところ、有識者会議のメンバー7名のうち、伊藤氏を含めた5名とはかなり面識がある。そのメンバーのうち年金制度の専門家はゼロ、資産運用の専門家は2名である。このメンバー構成の結果、物足りない議論になったのではないかと、面識のあるメンバーに代わって言い訳しておこう。

2014/04/27


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