機会があり、農中信託銀行の寄付をもらって今年度の前期から講義を開始した。コンセプトは「エクセレントな企業とは何なのか」を探ることにある。この最初の年度、京都企業を考えることにした。
講演の順番でいうと、オムロン、日本電産、堀場、島津、ワコールの経営トップに登壇してもらう。これが今年度の講義のコアになっている。対象学生は経済学部の3回生、4回生である。彼らには猫に小判とまでは言わないが、ある意味でもったいない。でも、聞いた学生の何割かが後々になって、「ああそうやったんや」と思ってくれればいい。もしくは、完全に理解できないまでも、何かを感じてくれればいい。
今日のオムロン・立石会長の講演は良かった。そもそもオムロンには、他の京都企業を招く呼び水の役割を果たしてもらっていた。もちろんオムロン自身、大成功した企業である。本日の立石会長は、そのオムロンの創業者の子息であるだけに、話に非常に説得力があった。僕自身、もちろんオムロンをよく知っているつもりだったが、創業者の企業理念が現実の経営をしっかりと裏打ちしているとは知らなかった。それだけに、学生のように「ああそうやったんや」と感じた次第である。
付け加えると、学生から次の重い質問が出た。「京都企業が活躍している理由は」というものと、「経営学と経営の実践との差は」というものだった。これに対する答えも(えらく困ったと言っておられたが)、実に良かった。
前者に対する立石会長の答えは、「京都は五感で本物を知ることができ、それが発想に対する刺激になる」というものだった。見る(たとえば寺社)、味わう(料理)、聞く(竹林の風の音)、ここからは僕の付け足しだが、嗅ぐ(お香)、触れる(着物)という具合。確かに、京都には文化と自然と、2つが身近に併存している。東京にはない状態である。
後者は、経営学はレールの上を電車で進むもの、経営はレールのない道を馬車で走るものとの説明だった(立石会長の説明を少し変形して書いた)。要するに、理論は理路整然たるものだが、実践は理論通りにいかないとの説明である。とはいえ、時間がないのが言われなかったが、理論は馬車を走らすコツを示してくれると言外に言われたかったのだと思っている。そうでなければ、創業者がかのドラッガーと懇意にしていたとは到底思えないから。
今年度の講義のシリーズは、その要点を、講演者の許可を得て出版したいと思っている。期待してもらえればと思う。
2014/05/15