川北英隆のブログ

日本経済の成長力は低い

先週末、某所で、元日銀理事かつ正統エコノミスト(と言うと渋い顔をされるかも)の早川英男氏に経済動向に関して講演してもらった。日本経済に関して短期は楽観、長期は悲観だった。
印象に残った点だけを順不同でメモしておきたい。
新聞情報に関して、「間違いが多い」、「楽観的な記事が多い」との印象を語っていた。このブログでも何回か書いているとおりである。
現在の経済は完全雇用に近く、2006年頃と異なり、公共工事による好況だから全国的に景況感が良いと。短観にある企業規模別、地域別の景況判断に基づいて、その根拠を示していた。地域別なんて普通は見ないから、さすが日銀出身者と思った。
失業率について、構造的な失業率は3%半ば程度だろうから、現在は完全雇用に近いと。労働需給が逼迫していることから、ある程度類推できる事実である。
4-6月は消費税の引き上げによって、予想の範囲内で経済活動は落ち込んでいるが、7-9月に意図的に引っ込められていた公共工事が再度積極的に投入されることもあり、景気の拡大が続くだろうとのこと。確かに日本の景気が落ち込む理由は今のところない。
消費者物価上昇率が2%に達するのはまだ先だろうが、一方で耐久消費財の供給が輸入に依存するようになったため(その典型がスマホ)、円安が一般の予想以上に消費者物価を引き上げているとの解釈が示された。そこまでは考えていなかったので、参考になった。
アメリカ経済に関しては比較的楽観的、ヨーロッパに関しては「まだ難問がある」との評価、中国に関しては7%台での成長率でも高すぎるとの見方を示していた。その通りだろう。
潜在成長率に関して。労働投入量が労働力人口減少によって減少していること、資本投入量が国内設備投資の抑制によって増えていないことから、日本全体の潜在成長率はゼロ%近くまで落ちているとの試算が示された。現在の日本の潜在成長力の大部分は技術進歩によるものなのだが、足下で電子機器の生産性が落ちていることからすれば、技術進歩による成長力自体も試算結果より低い可能性があると、僕の質問に対して答えてもらった。
以上からある程度推察できるように、安倍政権の経済政策に対して批判的だった。財政の健全化と成長戦略を優先すべき段階にあり、これまでのような金融政策の突出は避けるべきとの立場である。
最後に企業に関して、ガバナンスが重要だと主張していた。「何でガバナンスに興味があるのか」と怪訝に思っていると、「現金を持ちすぎ」との主張にポイントがあった。それなら、今月初めに発売された「企業会計」(中央経済社)の拙稿「配当か投資か、それとも現金保有か」をコピーして持ってくれば良かったと思った。
いずれにせよ、普段よく耳にする金融機関・証券系のエコノミストの議論の流れと異なる点がいくつかあり、興味深かった。

2014/06/14


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