川北英隆のブログ

スチュワードシップコード3

昨日のスチュワードシップコードに関する議論で記憶に残った点をメモ書きしておきたい。いずれセミナーを開催するかもしれないので、その備忘録を兼ねている。
議論したアセットマネジメント会社は「あすかコーポレートアドバイザリー(ACA)」である。彼らにとって、運用しているファンドの特徴が企業との友好的な対話を通じて投資パフォーマンスを高めることにあるから、スチュワードシップコードに高い関心を抱くのは当然である。
ACAがまとめたところによると、127社が受け入れを表明している。とりあえず受け入れ表明をするだけでなく、すでに詳細版を公表している投資家も30社あるらしい。
表明している投資家を業種別に見ると、アセットマネジメント会社、信託銀行、生命保険会社、損害保険会社、公的年金である。これに対して、企業年金は1社(セコム)である。証券会社、銀行はない。信託銀行についても、銀行勘定での保有はスチュワードシップコードの対象外と思える。
銀行の株式保有は政策投資であるから、スチュワードシップコードにある利益相反規程をクリアできないのだろう。この点、保険会社も問題になりそうだ。とくに、損害保険会社は投資資金の性質上(損害保険料は短期的な資金であることから)、株式投資に向かず、政策的な観点からの株式保有が基本だった。この点、実際の投資においてどのようにクリアするのかが注目される。保険会社の株式投資のスタンスが大きく変化する可能性を指摘すべきだろう。もしも変化しなければ、日本版スチュワードシップコードはまがい物だったことになりかねない。この意味で利益相反に関する規程は試金石である。
もう1つ、公的年金が受け入れを表明したのに対し、企業年金が1社しかないことである。公的年金は国からのプレッシャーが陰に陽にあったと思える。これに対して企業年金は、直接に株式投資することがほとんどない(アセットマネジメント会社に委託している)からだろう。とはいえ、公的年金も企業年金も、株式投資の方法に大きな差がないから、やはり公的年金と企業年金の差は不思議である。
この年金のスチュワードシップコードで考えないといけないのが、スチュワードシップコードのためのコストの問題であり、パッシブ運用との関係である。すでに何回か書いているので、ポイントだけをまとめておく。
まず、企業との対話にはコストが必要となる。このコストを誰が負担するかが大問題となる。また、対話の効果が生じた場合、効果が薄まるとはいえ、パッシブ運用にはフリーライダーの問題が生じる。さらに、パッシブと言いつつ議決権行使を強要するのは、議決権行使が有効であるためにはアクティブ的な分析が求められることから、矛盾である。下手な(機械的な判断に基づく)議決権行使は、企業行動を悪い方向に歪めてしまう可能性がある。なお、議決権行使に関して、外形基準で判断しやすい議案(社外取締役の選任が代表的)と、深い分析が必要な議案(配当が代表的)とを分けて考える必要があるかもしれない。以上は、昨日の議論の中心テーマでもあった。

2014/07/05


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