川北英隆のブログ

縮小均衡に向かう日本の資産

先週の金曜日、ニューヨーク為替市場での円ドルレートは112円台で終わった。過去を振り返ると、2011年に75.54円というのがあったから、ドルは対円で約50%値上がりしたことになる。
75円という瞬間のレートはともかく、1ドル80円くらいの水準が2年程度続いた。そこから110円でも40%近いドルの価値の上昇であり、逆に日本円の価値が急落したことになる。現在、1600兆円の個人金融資産がある。1ドル80円の時代であれば、20兆ドルの価値があった。それが、110円の時代になると、14.5兆ドルに目減りしている。
円安が望ましいのかどうかの議論が、ようやく巻き起こってきた。あまり言われていないが、実力をともなった円高は大いに望ましい。それが国の力の象徴である。もちろん、行き過ぎた円高でも、円高であれば何でも望ましいと言っているわけでない。
イギリスのポンドはかつて1080円で固定されていた。1ドル360円の時代のことである。それがイギリス経済の凋落とともに売られたのは、我々世代の記憶にまだ残っている。
以上の意味で、75円が112円になったからといって、それを喜ぶのは愚かである。なるほど、大企業は輸出が多い。円安の恩恵を受ける。だから嬉しいのかもしれないが。一方、中小企業はそうはいかない。個人もそうである。何回も書いたように、日本経済全体で見れば、輸出よりも輸入が多い。このことは、円安が輸出に好影響を与える(円に換算した輸出金額を増やす)よりも、輸入に悪影響を与える(円に換算した輸入金額を増やす)度合の方が大きいと言い換えていい。
円安が中期的に日本経済を活性化させれば話は別である。しかし、円安に転じた2013年から今日までを見るかぎり、日本経済が活性化する兆しは弱い。企業は労働コストの安い国へ、伸び盛りの国へと移動しつつある。この流れが止まるとは到底思えない。海外に触手を伸ばした日本企業は栄えるかもしれないものの、国内経済は縮小に向いかねない。
同じ先週の金曜日、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は国内株投資を増やすと同時に、海外株投資を増やすと公表した。多少飛躍した見方かもしれないが、国内投資が円安によって実質的に目減りするのを防御したのかもしれない。
今回の円安が、かつてのイギリスと同様、国力の低下を象徴しているのだとすれば、個人もまた、海外に資産を振り向けるべきである。円安によって国内経済と円ベースの金融資産が縮小に向かう前に、先手を打っておくのが正しいと思っている。

2014/11/01


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