昨日の配当に関するコメントの続きである。日本の経営者にはファイナンスの基本を学ばず、それでいてファイナンスを毛嫌いする傾向が強い。今回の配当株人気もその類ではと疑ったりする。
株式投資の神様とも崇められるバフェット氏は現金をたんまりと保有し、株のバーゲンセールにその現金を出動させる。バフェット氏(その会社のバークシャー・ハサウェイ)が保険会社を傘下に収めている理由は、その事業が現金をコンスタントにもたらすからである。
それで、何が言いたいのかというと、現金は、いつでも、何にでも変えられる魔法の「物」である。そんな便利な性質を持っているから、「金利はいらん、それでも現金がええ」という投資家が多いのである。事業をしていてもそうだろう。景気が悪くなった時こそ、設備投資のコストが安くなり、最大の投資チャンスがやってくる。とはいえ、景気が悪くなると銀行が資金を貸してくれなくなる。その時になって、現金欲しさのあまり、「あの配当、やるべきやなかった」と悔やんでも後の祭りだろう。
成長を目指す企業であれば、また特定の分野で世界最大、最強を目指す企業であれば、いざという場合の投資資金の調達もあらかじめ描いておくべきである。目先の株価にとらわれて「配当を多くしよう」なんて、投資家に媚を売るべきでない。
ある研究によると、業績の安定している企業の株価パフォーマンス(投資収益率)は高い。では、配当をたくさんすれば、どうなるのか。少し専門的な議論になるが(詳しくは「テキスト 株式・債券投資」でも読んでほしい)、株主資本比率が下がり、レバレッジが効くようになるため、現時点のように景気がいいとROE(株主資本利益率)が急速に上昇する。しかし、景気が悪くなるとROEが急速に悪化する。つまり、業績は安定しない、この結果、長期的な株価パフォーマンスが悪くなる。
要するに、投資家も企業も、配当という目先の利益に惑わされてはいけない。株式投資の本質(事業の本質)は、その企業の成長力であり、その成長力を裏打ちする事業の利益率である。ファイナンスの基本は、この単純な事実を裏打ちするだけのことである。
2015/02/12