川北英隆のブログ

トヨタは種類株で何を考えたか

トヨタの種類株発行に対して基本的に問題ないと書いた。とはいえ、気になっていることもある。トヨタとしての、この種類株発行の本当の意図である。この点、某外資系大手アセットマネジメント会社も気にしていた。
このアセットマネジメント会社は、資金調達が何故必要だったのかを問い合わせるために、わざわざ東京から豊田市を訪問するとのことだった。その訪問の結果がどうだったのかは聞いていないが。いずれにせよ、外部から大切な資金を預かり、運用しているからには、この程度の手間暇をかけないといけないのだと、改めて認識させられた。
それはともあれ、トヨタによる種類株発行の「お知らせ」(4/28)によると、順に、次のことが書かれている。
普通株の希薄化を防ぐため、種類株式の発行後に、発行株式と同数程度の普通株式の自己株式取得を行うこと。研究開発投資の資金調達のために、中長期の保有を前提とした種類株の発行を行うこと。
以上から言えることは、まずトヨタの普通株が種類株と置き換わることである。新規の資金調達はない。では、普通株と種類株とで資金の性質に差異が生じるのか。差異は、業績が悪くなった時、普通株が売られて株価の下落を生じるのに対し、種類株は売られないことである。しかし、今回のようなわずかな種類株の発行(28兆円の時価総額に対して0.5兆円の発行)では、普通株の株価をどの程度下支えるのかは不明というか、効果に乏しいと考えたほうがいいだろう。
もう1つは、普通株が種類株に置き換わることによる配当金額の差異である。種類株の場合、5年間で年平均約1%、配当が少なくてすむ。しかし、今回の資金調達額は5000億円だから、その1%は50億円である。直前の決算で2兆円以上の純利益を達成しているトヨタにとって、ごくわずかな金額でしかない。それとも、業績が悪化した場合のことを想定したのだろうか。
普通株を発行して資金調達したのなら、最近の他社の事例では株価を下げてしまう。そこで、少しひねった資金調達を行ったのだろう。今のところ、株式市場から資金調達する可能性を試してみたか、わずかな効果とはいえ業績悪化の場合を想定したとしか言いようがない。今後、トヨタが継続して種類株を発行するのかどうかによって、トヨタとしての目的が明確になってくるだろう。
追記:自己株取得について、「種類株発行とほぼ同数の普通株の取得」であるから、種類株価格が普通株より30%高い分だけ新規資金調達になるとの指摘を受けた。確かにそうであるが・・、やはり大トヨタにとってわずかな金額でしかない。

2015/07/25


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