株主資本利益率(ROE)への関心が高まり、新聞にも多く登場するようになった。しかし、ROEだけを重視していると、思いがけないしっぺ返しを食らってしまうだろう。
株主資本利益率(ROE)とは、税引き後の利益を株主資本(純資産)の総額で割ったものである。この率が株主にとっての利益率(株主が企業に提供した資本当たりの利益率)であるから、株主にとって最大の関心事項であることは否定しない。
しかし、この率は大きく変化する。このため、短期的な指標である。中長期的な意味で、本当に素晴らしい企業を選ぶには適していない。極論すれば、ROEだけを取り上げて報じ、それだけを祭り上げて企業を選別するのは、きわめて短絡的であり、ある意味で無知であることをさらけ出している。
ROEは「有利子負債(借金)と純資産の比率」の影響を大きく受ける。別の表現を用いるのなら、ROEはレバレッジ(負債を使った利益率の嵩上げ)の影響を大きく受ける。レバレッジが高ければ(有利子負債での資金調達が多ければ)、景気が良くなった時にはROEが急速に上昇するものの、景気が悪くなった時にROEが急速に低下する。経営戦略的にレバレッジを高めている企業もあるだろうが、通常、レバレッジの高い企業はダメ企業に属している。
投資家として注視しておかないといけないのは、総資産営業利益率(ROA)である。厳密にはもう少しROAの計算方法を工夫すべきではあるものの、大雑把に言って、有利子負債と純資産と合わせた企業の投下資本全体が営業利益をどの程度生み出しているのか、またこのROAが上昇しているのか、低下しているのか、常に把握しておくべきである。その上でROEの分析を行うべきである。
ROAをベースにした分析の意味は、要するに企業設備やノウハウがどの程度の利益をすべての資金提供者のために(すなわち、負債の提供者と株主資本の提供者のために)生み出しているのか、税金を支払う前の段階で把握することにある。見る角度を変えると、企業が稼いだ利益を、その後、どのように負債の提供者、株主資本の提供者、政府(税の徴収者)に分配するのかは、企業設備やノウハウと無関係である。つまり、株主資本の提供者に分配された利益の割合の指標であるROEは結果論でしかなく、本質的な意味を持たない。
以上のことを十分に理解しているのか、もしくは何も理解していないのかでは、今後の株式投資の成果が大きく異なってしまうだろう。
2015/08/09