川北英隆のブログ

発展途上中国リスクの顕在化

8月に入り、3回シリーズで「中国は真の大国になれるか」を書いた。株式市場の大波乱で嫌な予感があったのだろう。その予感が的中した形で、中国元の実質的な切り下げが実行された。
昨日、今日と小刻みに元は切り下げられた。対米ドルで3.6%程度の切り下げである。大した率ではないものの、政府の力で切り下げたことに衝撃がある。
中国としては経済に刺激を与えないことには、目標とする実質ベースでの7%成長が達成できないのだろう。そのために政策金利を引き下げ、預金準備率を引き下げ、株価の暴落を阻止しと、いろんなことをやってきた。しかし、中国の労働人口のピークアウトという現実には、いくら中国政府の力が強力であったとしても、抗するのは不可能だろう。
そもそも、7%成長という目標が高すぎるのである。このことは中国政府自身も知っていると思える。とはいえ成長率の目標をノーマルな3%程度(当てずっぽうだが)に一気に引き下げれば、政権崩潰の可能性が高まる。だから表面的に無理をする。とはいえ、たとえば為替レートを20%とか30%とか一気に切り上げるのも世界が許さない。だから、あの手この手を小刻みに使い、景気の浮揚を図りつつ、時間稼ぎをしているのだろう。
以上を書いて思ったのは、この中国のミニ版が今の日本だということである。経済成長目標を高めに掲げ、金融緩和と円安誘導と株価対策と財政支出で目標達成を試みている。経済が数年前の状態に悪化すれば、安倍政権は崩壊する。
もう1つ思ったのは、経済の高成長が終わったのに(その潜在的な力がなくなったのに)、以前と同じように高成長を図ろうとすれば、政府の財政を一気に悪化させるか、経済のバブル化が生じるか、どちらかだということである。日本の場合、1975年前後に高度成長期が終わった。それなのに、しばらくの間、景気浮揚のための(元の成長率に戻ろうと)財政政策を打ち出した。これが大量の国債発行を呼び込んだ。また1985年から数年の好景気を本物だと政府自身が信じたため、地価と株価の高騰を招き、日本経済を深く傷つけた。
今回の元の切り下げ自身の影響は大きくない。大きくないように、中国政府は小さな切り下げで済まそうとしている。問題は、中国が本音でどの程度の経済成長率を想定しているのかである。その本音の水準にソフトランディングを果たそうとしているのだろうが、想定の水準が高いと中国経済に中長期的なダメージを与えかねない。想定の水準が低いと、ソフトランディングにまで時間が必要となり、政権崩壊のリスクも高くなる。
いずれにせよ、クワバラ、クワバラというところか。

2015/08/12


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