土曜日の最終講義で喋る材料を探していて、「そやった」と思ったことがある。これまで強くは意識していなかったのだが、「これは話のネタになる」というので、最終講義に入れた。それは株式売買手数料の自由化のきっかけである。
株式売買手数料、正確には株式売買委託手数料とは、要するに株式を売買するとき、証券会社に払う手数料である。今はタダみたいに安いが、1990年代まで、えらく高かった。普通の個人の売買金額なら1.25%だったと思うが、その程度必要だった。50万円の買い注文で6千円少しである。売買すると往復分が必要になる。
それが1990年代の終わりに自由化に向かい、現在は完全に自由化されている。個人投資家として(大手の投資家もそうだが)、誰のおかげで安く株式を売買できているのかというと、実は「それは僕だよ」である。大袈裟に言うと、そうなる。お礼があって然るべきか。
実際はお膳立てされていた通りなのだろうが、1996年に審議会(証券取引審議会)に呼ばれ、そこで株式売買手数料の自由化が必要だと喋った。もう1人呼ばれていて(誰だか忘れた)、同じようなことを喋ったと記憶している。その結果、今の自由化がある。以上、事実関係としては正しい。
株式売買手数料の自由化をと思ったのは、著書である「日本型株式市場の構造変化」を書いたことがきっかけである。昔々の証券会社にとっての必要性からカルテルそのものの料率が形成され、維持されていた。
そんな思い出話を最終講義でしていると、同僚が実は証券会社出身だったことから、「川北さんが張本人だったの。当時、勤めていた証券会社のボーナスが大幅に下がってしまった。補填をしてや」と訴えられた。
世の中、あちらを立てれば、こちらが立たずである。口は災いの元とも。まあ自由化は流れとして仕方なかったし、この株式売買手数料の話は20年前のことだから、ほぼ時効だろう。ということで、許しを請うた。
2016/03/15