直前の「予想」に反してイギリスのEU離脱が決まった。相場は大きく動いた。これをどのように見るのか。短期と中期では評価が異なると思う。
短期的にはマイナスだろう。今日、ポンドやユーロは仕方ないとして、ドルも対円で下落方向に乱高下した。株価は大幅な下落である。もっとも、アジアの中で日本の下落率が圧倒的に高いのは気になる。少し前、ブログに書いたように、日本としての「仕手株の本領」発揮なのかもしれない。
とはいえ、中期的にはどうなのか(ここであえて長期とは書いていないのは、誰も分からないから)。思い出すと、EUの結束は2008年のリーマンショックを経て揺らいでいたのは周知の事実である。ギリシャ問題の代表される欧州内の南北格差(これは経済格差だけではなく、文化の格差でもある)、移民問題による混乱が代表的だろう。今回、イギリスのEU離脱が決まったのも、この延長線上にあるだろう。
EUの理念は正しい。国境が無用であるに越したことはない。
しかし、EUが採用してきた「政治的戦略」の目標は「ヨーロッパの中心国、すなわち独仏そして英による経済的な世界制覇」である。このため、国際会計基準に代表されるように「原理主義」を基調としてきた。理論的に正しい基準が絶対という主張である。当然、この原理主義に対する反発は強かった。
リーマンショックは原理主義に対する反発の糸口となり(つまり従前の原理の正当性が問われ)、EU全体の経済力に対する現実上の打撃とあいまって、ヨーロッパ全体の結束力を弱めてしまった。そうだとすれば、どこかでリーマンショック以降の流れを逆流させる決定打が出ないかぎり、EUの空中分解は不可避に近かったと思えて仕方ない。
もしもこの説が正しいとすれば(正しいと思っているのだが)、イギリスのEU離脱は「原理主義者達」に厳しい現実を突きつけたことになる。この結果、原理主義者達は(ヨーロッパの原理主義者は多分賢明だろうから)より現実的な着地点を求めることになろう。これにより、世界経済はEUによる理想というか幻想追及がもたらす「現実の社会経済の中長期的な混乱の流れ」から開放される可能性が出てきた。
イギリスは離脱による混乱を避けるため、各国・地域と交渉を開始することになろう。交渉が決着しないかぎり、先行きに対する不透明感から経済活動が抑制されうる。しかし、政治家がアホでないのなら(多分、どこかの国より賢いだろうから)、イギリスがEUの一員であった時代とほぼ同様の条約や協定が締結されるだろう。ただし人の移動は別だろうが。
以上から、今回の事件について、中期的には楽観視していいと思っている。むしろ今後、イギリスがEUに残ってしまったために、EUをめぐる混乱がことあるごとに蒸し返されたかもしれない事態と比較すれば、相場的に「アク抜け」と考えていいのかもしれない。
なお、イギリスだけを考えた場合、各国との交渉が妥結するにしても数年にも及ぶ不透明感が避けられないこと、イギリス経済に活力をもたらしてきたのが若い労働力としての移民であること、石油資源を有したスコットランドが独立する可能性などを考えれば、イギリス国力の低下は免れないだろう。大英帝国の再度の没落の始まりかもしれない。
2016/06/24