昨日、日銀が日本の株式市場を壊してしまうと書いた。株式(上場投資信託=ETF)の追加購入を決めたことに対する評価である。この理由はいたって簡単である。
7/20現在、日銀は日本の株式を10.0兆円保有している。市場の株式時価総額(7/29)は516兆円だから、すでにその2%程度が日銀の保有となっている。7/29、日銀の金融政策決定会合は金融緩和政策の一環として、ETFの年間買入額を現在の3.3兆円から6兆円に増やすと決議した。日銀の株式保有額が6兆円増え、1%強(正確には約1.2%)、市場に対する影響力が増強される計算である。来年の今頃、日銀は16兆円の株式を保有する。この金額は、株価が大きく変化しないとすれば、市場全体の約3%に相当する。
黒田日銀が採用した異例な(異次元なんて言うと宇宙人に怒られそうだから、そんな表現は使わない)金融緩和は「いつまで続く泥濘ぞ」というわけだから、4年後の東京オリンピックの開幕時には、34兆円、6.6%の影響力に達すると計算できる。これで株式市場の本来の投資家は喜ぶのだろうか。本来の機能を発揮できるのだろうか。
日銀が買っているETFの多くは普通の株価指数連動型である。この株価指数、日本の場合はたくさんの企業が組み入れられているため、玉石混交である。広い意味での政府機関が石ころ企業の株式を買い、応援してどうするのか。これでは株式市場に本来期待されている「企業の選別機能」「良い企業に資金供給して、長期的な経済の発展を促す機能」を殺してしまう。
なお、昨年12月、「設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業」を組み入れたETFも3000億円分購入対象にした。その中身を精査していないため評価は差し控えるが、そのような企業が有望なら、購入額を増やすべきだろう。
そもそも、黒田日銀がETFを購入し、さらには不動産投資信託(REIT)も購入しているのは、株価や不動産価格を支え、国民の景況感を明るくすることに目的がある。今回、ETFの購入を増額したのは、株価がピークから相当下落しているからだろう。つまり日銀は、「株価が安い」と思ったか、「この株価では国民の景況感が悪化する」と思ったかのどちらかだと推測される。
金融政策決定会合に参加した委員は「株式市場のボラティリティを高める、株価を目標にしているとの誤ったメッセージになる等として反対した」とのことである。「誤ったメッセージ」はともかくも、金融政策の総本山としての日銀は、資産価格がバブル的になることも防ぐ役割を担っている。この点は日本の1980年代後半、2000年前後の不メリカのITバブル、そしてリーマンショックを頂点とする金融危機からの教訓である。それにもかかわらず、日銀が株価の上昇を画策するような行動を選択してどうするのか。それとも日銀は適正な株価水準を判断できる神様なのか。
ついでに書くと、「何でもいいから株価が上昇すればいい」との投資家がいるのも確かである。今日の日経のネットの見出しに「日銀本格緩和、お楽しみはこの次に」とあった。日本のバブルの後遺症が四半世紀、続いているというのに、また債券市場が壊れてしまったというのに、凝りない面々である。
2016/07/31