日本価値創造ERM学会というのがある。ERMとはenterprise risk managementの略である。この学会ができて10年が経過した。それを記念し、今年度はシンポジウムを4回開催し、一般にも無料で開放している。
少し宣伝しておくと、(企業)価値創造とERMを結びつけたところに学会としての先見性がある。僕が命名したわけではなく、昨年度末まで明治大学におられた刈屋武昭さんの発案によるのだろうと推測している。
現在、リスクアペタイト(risk appetite)・フレームワークという用語に注目が集まりつつある。リスクマネジメントと言うと、慎重さが前面に出ている感がある。この点、リスクアペタイトとは自己の能力の限界を知りつつ、その範囲内で積極的にリスクをとって利益を挙げるというニュアンスがある。このリスクアペタイトと価値創造ERMとは非常に近い概念である。
それはともかく、昨日のシンポジウムではオムロンの執行役員常務、安藤聡さんを迎え、「企業と投資家の対話の現場」と題して対談をした。対談と言いながらも、僕がほぼ一方的に質問をするだけだったのだが。
面白かったのは、株主総会の主要議案(取締役選任議案)に反対票を投じながら(総会では、その反対は少数で、意見が通らなかったのに)、その後、何のアクションも起こさないプロの投資家がいるとの事実を指摘されたことだった。
実は僕自身、複数の場所で主張しているのは、パッシブ運用(株価指数の構成をそのまま真似する投資)で議決権行使し、反対票を投じた場合、その後も株式の保有を続けるのは変ではないかということである。そもそも、パッシブ運用で議決権を行使することの意味を真面目に考えているのか(株価指数を真似することは市場に追随することを意味するのに、そこで議決権を行使するのは市場の流れに棹さすことになり、自己矛盾ではないのか)という議論もあるのだが、それはともかくとして、反対票を投じるくらいに批判したい企業なのに、その株式の保有をいつまでも続ければ、企業に馬鹿にされてしまう。
かつて(1980年代以降)生保業界は企業に「もっと配当をしてほしい」と言い続けてきた。しかし、企業は配当を簡単には増やそうとしなかった。それでも生保は株式を売らなかった。だから企業に馬鹿にされたというか、「狼少年」程度に扱われたのである。
これと同じことが、パッシブ運用と議決権行使の関係についても言える。反対票を投じているのに株式を売らないのであれば、企業にとってはやはり「狼少年」である。「また反対してるなあ」という、株主総会の時期の風物詩的なことになりかねない。
言うからには覚悟を決め、行動を伴わないといけない。この点を安藤さんが突いたのである。
2016/09/10