人工知能(AI)に注目が集まっているのは周知のこととして、それが教育や職業に与える影響に関して、日本で議論されることは少ない。議論されているのは車の自動運転程度だろうか。
まず考えられるのは、単純な作業が機械に置き換えられることである。車の運転がその最たるものだろう。人間の役割は、その機械の作業に異常がないかどうかの監視となり、異常があった場合の対処となる。
たとえば自動車の運転免許は、車を動かす技術ではなく、車の異常の発見と対処方法の技術になるかもしれない。もちろん、車を人間だけで動かす必要性はある程度残るだろうが、多くは必要ない。当然、今ある自動車学校は衰退するだろう。
単純な営業人材も必要ない。基本的な情報はコンピュータを介してすぐに得られるし、伝えることができる。これは金融機関にも言える。単純なデータ収集、分析、評価はAIがすべて代替してくれる。
人間の行動や売買活動に影響を与える要因は複雑である。それだけに機械に置き換えられない部分は残る。しかし、その領域に関しては、AIを使いこなしたうえで、複雑な対応と判断が求められる。そのための(そのような人材を社会に送り出すための)教育も、知識を単純に教えることから大きく離れ、それらの知識を横断的に駆使し、意思決定の材料とするためのものに変化していくだろう。
逆に、残る職業は何なのか。1つは複雑な技術や美的感覚を必要とする職業であり、汎用的でない職業(すなわちスペシャリスト)だろう。庭師やシステムの設計者が典型かもしれない。もう1つは複雑な交渉の仲介である。弁護士が典型だろう。教育者も残るだろう。教育相手の反応を感じ取り、適切な教え方を工夫しなければならないからである。研究者も残るだろう。とはいえ、これらの職業にも機械やAIが多く取り入れられることになる。このため、これらの職業に必要な基礎知識が大きく変化する。
これらの職業の変化は社会のあり方にも大きな影響を与える。
上で述べたことからすぐにわかるように、教育のあり方が変化しないといけない。教えるべき科目が変化していく。教え方も変化する。教材も変化する。国は、この変化に適切に対応して教育方針を変化させなければならない。これまでのようなゆっくりとした対応と変化でいいのかどうかである。
また、企業での仕事の仕方も変化する。工場での生産活動以外は、在宅勤務、サテライト勤務が常識になるだろう。もちろん、実際に顔を見合わせて打ち合わせたり、議論したりする場合もある。しかし、毎日決まった時間に出勤する必要性はない。とすれば、都市部のあり方や交通網のあり方にも変化が生じる。
金融も大きく変化する。銀行の窓口はもっと少なくていいだろう。現金を使う機会も少なくなる。ほとんどはAI技術を用いた端末(スマホを含む)、カードで済んでしまうだろう。
最後に変わらないといけないのが役所である。書類の電子化を加速しないといけない。楽観的に考えると、これまで電子化がほとんどなされていない分、いわゆるカエル跳びで一気に最先端になれる可能性もある。そのためには、役人や政治家がAIの流れを十分認識し、前例にとらわれずに行動することが絶対の条件となる。
2016/09/17