川北英隆のブログ

なんちゃってESG投資への困惑

ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つに配慮した証券投資のことである。この投資、異常なほどの人気である。それだけに怪しい様相がある。
ESG投資が人気を博している1つの大きな理由は、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が採用したからである。しかし、GPIF自身、ESGに関する知識がどの程度あり、認識が十分なのか怪しい。
GPIFはPRI(Principles for Responsible Investment)に署名したと公表しているのだが、その表現が怪しい。というのも、「国連のPRI」としている。僕として、知り合いの企業に教えてもらったのだが、「PRIは最初に国連が提唱したESGの原則を実践に移した機関」ではあるものの、「現在のPRIは国連の機関ではない」。つまり、「国連のPRI」と書くのは事実と異なる。
大袈裟に言えば、GPIFは正しく理解しないままに(つまり、ESGには多様な考え方や方法があることを紹介しないままに)、「国連のPRIだから、国際的なお墨付きを得ていて絶対に近い」と誤認しているのではと、僕は危惧している。直接、GPIFの責任者にクレームをつけたので、そのうち修正されるだろう。しかし、長らく誤認を放置しておき、時間が経った後で訂正するのでは、その間、事実と異なる情報を垂れ流したに近い。
それよりも問題なのは、GPIFの尻馬に乗って「我こそはESGを先導してきた権化である」と、複数のアセットマネジメント会社が名乗りを上げていることだろう。「嘘やんか」に近い。「証拠見せえ」とか、「チャンピオンベルト見せえ」(こっちは吉本のギャグか)と思ってしまう。G(Governance)はともかくとして、E(Environment)やS(Social)に関して、真面目に何人もの専門のアナリストを配備し、調査してきた大手のアセットマネジメント会社はごく限られているか、いないのではなかろうか。
ESGの調査には大きなコストが必要となる。しかも、ESGが投資収益率をどの程度上げるのかといえば、あったとしても、少しの成果でしかない。大手のアセットマネジメント会社が高い人件費をつぎ込む値打ちに乏しい。だから、今の日本、アセットマネジメント会社のESGの多くが「なんちゃってESG」と化している。
日本において、正当なESGに関してちゃんとした調査をやってきた数社の中に小規模な調査会社が含まれる。しかし、この小規模な調査機関に対し多くの投資家は、その存続性と経営体制や調査体制を疑問視している。
この小規模な調査会社はいわばベンチャー的な会社である。そんなベンチャーを育成しようとの上場会社やアセットマネジメント会社が少ない。現在、そんな調査会社を支えているのは、その経営に賛同した専門的な知識を有するボランティアである。
逆に、小規模な調査会社の経営に「こりゃええやん」と何社か乗れば、そんな調査機関もあったのかと世間一般が認識を新たにするだろう。とすれば、その調査機関の経営も調査も安定していく。
いずれにせよ、ESGに代表されように、巷間流布する理念や看板を鵜呑みにしてはいけない。この分野においては、ESGを支える意気込みでの率先した行動が重要である。では誰が行動しているのかはといえば、まだまだ影に埋もれている。

2016/10/23


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