11/23、日経朝刊のマネー欄は久々のヒットだと思う。ネット版では11/26にアップされていた。日本株では、市場全体をそっくり真似るパッシブ運用よりも、これぞと思う企業に投資するアクティブ運用が勝っているという。
パッシブ運用とは、上場企業の価格形成に難点がない(公表された情報が完全に折り込まれて株価が形成されている)との前提に立つ投資スタイルである。個々の投資家として付け足す情報がないから、いくら頑張ったところで、骨折り損のくたびれもうけになってしまう。だから、調査や分析のコストが回収できないというわけだ。実際、海外ではパッシブ運用の方が望ましいとの分析結果が報告されている。
そこで、日本でもパッシブ運用が流行っている。そのパッシブにおいて、真似する市場として東証一部、その価格指数としての東証株価指数(TOPIX)が流行っている。現在では2000社以上が東証一部に上場している。
しかし、海外のパッシブ運用を振り返ると、500社とか100社とか、下手をすれば数10社で「市場」が形成されている。ここで市場とは、現実には、それぞれの海外市場の価格指数を計算するための企業数である。アメリカでの代表的な株価指数はS&P500であり、それは500社で計算されている。つまり、全上場企業の中の選ばれた企業ということになる。
この日本と海外の「市場」の差はきわめて大きい。
日本の場合、日本の大学と同じである。入るのは(東証一部上場になるのは)難しいが、入ってしまえば、余程アホなことをしないかぎり(倒産や悪質な粉飾決算をしないかぎり)、遊んでいても(努力しなくても)、東証一部の地位を失うことはなく、TOPIXの計算対象になる。だから、少し眼力があれば(真面目に教えている教員であれば)、ダメな企業(学生)を見破ることができる。
欧米の場合、たとえばS&P500の構成企業になるためには、選ばれなければならない。企業として努力して、他者から「すごい会社や」と認められなければS&P500という市場を形成できない。別の観点から見れば、S&P500を計算しているS&P社がアメリカの上場全体の中から500社を厳選している。つまり、パッシブ運用を行う投資家はアクティブではないのだが、S&P社がアクティブな行動を行っている。
この点は最初に挙げた日経の記事にも、(どこまで記者が意識しているのかはともかく)それとなく書いてある。日本の大学に喩えたのと同じことだが、東証一部つまりTOPIXは玉石混交である。一方、S&P500は「玉ばかり」とは言わないまでも、石ころの割合が少ない。S&P社はアホでないから、投資家が賢明に調査、分析しても、S&P社に勝るだけの玉と石ころの選別は難易度が高い。言い換えると、プロの投資家が独自にアクティブに企業選別して投資しても、S&P500を上回る投資パフォーマンスをあげられるかどうかは保証のかぎりでない。
以上の点を、日本でのパッシブ運用信奉者は見落としている。現実市場というか制度というか、それへの知識と批判精神と理解能力が不足しているとしか言いようがない。
2016/11/26